【完結】 俺だけレベルアップが止まらない

ファンタスティック小説家

ミスター・ゴッド


「世界にはお前のマッサージが必要だ!」

「残念ですが、もう嫌なんです」

「戦争、飢饉、天変地異、お前の力があれば人類は救われる!」

 

 俺、加納豊かのうゆたかは天才として生まれてきた。

 天才として育てられてきた。

 だが、もう限界だった。

 

「こっちを見ろ豊! 150年続いた系譜をここで途絶えさせる気か!」

「さようなら。二度と会うことはないでしょう」

「豊! 待てええ!」


 俺は荷物を手にして足早に玄関からでていく。

 ドアノブに手をかけ押し開く。

 瞬間──視界はまっしろに包まれた。

 異常を察してあたりを見渡す。

 なにもない。

 後ろを見ても、加納家の玄関はなかった。

 

 白い空間の真ん中には『チュートリアル会場』と書かれた看板がある。

 

 しばし、不審者みたいに徘徊はいかいして待つと、どこからともなく人が現れだした。

 数えて待つと全部100人そろったところで増加はとまった。


『こんにちは、人類のみなさん』

「お前は?」

『ゴッド・オブ・ダークネスと呼んでください。ああ、いえ、やっぱり、ミスター・ゴッドがいいです』


 ふざけた声の主は姿を持っていない。

 軽薄な声調だけが神秘的な白い空間に響いている。

 

『ミスター・ゴッドからみなさんへの要求はひとつだけです。ある大悪魔を倒してください』


 ミスター・ゴッドは述べる。


 俺たち100人は大悪魔を殺すために神が集めた戦士であると。

 これから異世界に送り込むが、現状だとクソの役にもたたないので、ここである程度使えるようになってから転移させる計画だと。

 

『皆さんが戦いたくないと言うなら、それでも構いませんが、もし悪魔を殺してくれるなら、異世界での永住を許します』


 異世界。

 俺にとっては大変魅力的な響きだ。

 そこでなら新しい自分になれるんじゃないか?

 乗るしかない、このビッグウェーブに。


『では、どうぞ、意志ある者だけ、チュートリアルへおすすみください』


 あたりを見渡す。

 重火器で武装した軍人、暗器をもった殺し屋、極悪死刑囚、ヘビー級ボクシングチャンピオン、ブラジリアン柔術の達人、世界制覇をしたボディビルダーetc


 確かに強そうなやつらが集まってるな。

 彼らにも異世界でやり直したい動機があるのか。みんなやる気だ。


「あ、あの……」


 心細そうに寄って来た日本人の少女。

 俺は黙ったまま離れる。

 喪服のような黒服に身をつつむ綺麗な少女だ。

 俺の才能は女の子を辱めることで有名だ。主に俺のなかで。

 近づかないのがお互いのためだ。


「あの! な、なんで無視するんですかね?」

「それが最善だからですよ」

「そんなこと、ないと思います。私と、手をくみませんかね?」

「戦えるんですか?」

「一応、実家は100年続く殺し屋の家系です……」


 ろくでもない家だな。俺の実家も言えた義理じゃないが。

 なんでうちは150年もマッサージ続けてんだよ。意味わかんねぇよな。

 うん、まじ意味わかんない。

 ただまあ、この非常時に殺し屋の味方は心強い。


 少女がスカートの下から、分厚い刃のマチェーテを取り出したのをみて「ついて来てください」と言った。4次元スカートとは初めてお目にかかった。

 少女はぱぁーっと顔を明るくして元気よくうなづいた。


『いまから全100階層のダンジョンを使ってトレーニングしてもらいます。どこまで行けるかあなたたち次第。制限時間は1週間です。時間になったら異世界に放り出して次の指示を出します。ちんたらしてたら向こうで雑魚モンスターに殺されちゃいますよ。では、張り切っていってらっしゃい』


 俺と黒い少女は光に包まれて転移した。

 やってきたのは通路の狭い迷宮だった。


『下の階へ降りる階段を探してください。モンスターが出てきたら躊躇なく殺して経験値をゲット、それでレベルアップすると、基礎ステータスに補正がかかります』


 ミスター・ゴッドの指示に従って「ステータス」と声を重ねて言った。

 

 ───────────────

 加納豊

 レベル1

 HP 4210/4210

 MP 530/530


 補正値

 HP   10

 MP   10

 パワー  5

 スタミナ 5

 耐久力  5

 神秘理解 5

 神秘耐久 5


 ユニークスキル

 ≪肉体完全理解者≫


────────────────


 なるほど。

 だいたいわかった。

 地球人の素の身体では向こうで脆弱すぎるから、この補正値というやつで武装していけということだろう。


「あの、どんな感じでしたかね?」


 少女がのぞいてこようとしたのでステータスをすぐに閉じる。


「え、なんでですか?!」

「まだ信用してないですよ。殺し屋ですし」

「ひ、ひどいですよ!」

「当然。酷くて結構です」

「じゃ、じゃあ、わたしの見せてあげますから」

「いや、いいです。それで見せろと要求させるなら見たくないです」

「ええ……」

「ミスター・ゴッド」

『なんでしょうか』

「ユニークスキルについての説明をしてくれ」

『ステータスタップすれば見れますよ』


 ──────────────────

 《肉体完全理解者》

 あらゆる活動から効果的に経験値を積むことができる。

 効果:獲得経験値2倍

 ──────────────────


 経験値があがるとレベルアップがはやくなるのか。

 あいにくとゲームには疎いのでこれが強い能力なのか判断に困る。

 まあ、単純な効果なのはありがたい。


『モンスターが来ましたよ』

「ウォーターボール」


 少女が水の玉で吹っ飛ばしてしまう。


「あなたは魔法使いだったんですか?」

「わたしのスキルの欄にウォーターボールってスキルがあったので試して見ようと思って」

「本業はそっち?」


 彼女の手にもつ分厚い刃のマチェーテを見やる。


「もちろん」


 少女はそう言って、マチェーテをぶん投げて、さらにモンスターを殺した。


「あ、いま、わたしレベルアップしたみたいです」

「なるほど。ミスター・ゴッドの言った通りだ」


 異世界移住権のため、まずはレベルアップしろと。

 だいぶぶっ飛んだ展開だが、事実は小説より奇なりと言うしな。

 俺たちは深度1のモンスターを片っ端から倒しまくることにした。

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