第13話




「お前のお披露目会と、合併の祝いのパーティーを合同でやることになった」

 そう告げられた私はきょとんとする。

 洸さんがソファーに座って新聞を読みながらさらりと言い放ったから聞き逃しかけたけど、割と重要なことではないだろうか。

「え……いつですか?」

 ドキドキしながら聞けば「一週間後」とのこと。思ったよりも時間がない。いつも急なのは洸さんの悪いところだと思う。


「ドレスとか、買いに行かなきゃ……」

 ポツリと独り言ちる。旦那様の好みはどんなものだろうかと考えて、彼に尋ねようと口を開く。

「必要ない」

 私の言葉を遮って、そう言った洸さんはバサッと新聞を畳んで立ち上がる。そして寝室から華やかにラッピングされた箱を持ってきた。

「……ほら」

 私に渡してくれたその箱を受け取ると「開けてみろ」と促される。

 ゆっくりとリボンを解き、包装紙を開いた。


「うわあ……」

 蓋を開ければそこには真っ赤な生地。広げてみれば、それはとても触り心地の良いパーティードレスだった。膝丈のAラインのスカートに七分丈の袖はレースがあしらわれている。


 とても綺麗で大人っぽい赤。だけどスカート丈がそんなに長くないから可愛らしさもあって、色気なんてないに等しい──子どもっぽい私には有難い。


「俺の隣を歩くんだからな。それなりな格好しろよ」

 洸さんの言葉に、どこか不安を覚えた。こんなにも素敵な人の隣に並ぶにふさわしい人?それはたった1人しか思い浮かばない。

「お姉ちゃんのようになれたら、自信を持ってあなたの隣に並べたのになあ……」

 ボソボソと聞こえないように言ったつもりだったけれど、旦那様はとても耳が良いみたいだ。


「……お前は俺の嫁だ。胸張って隣に立ってろ」

 私の頭に手を乗せて顔を覗きこんだ。それだけで、自信だって湧き出てきちゃうから不思議。

「頑張ります!」

 ぐっと拳を握って笑ってみせると「それでよし」と洸さんも微笑む。

 その笑顔ひとつが私の原動力になる。



 ──最近、彼はとても機嫌がいい。笑ってくれることも増えた。その理由は私には分からないけれど、会社に向かう足取りがいつも軽いから、きっと仕事がうまくいってるのだろう。


 彼の機嫌がいい理由なんて私にはどうだっていい。

 ただ楽しそうな旦那様を見ていると、妻である私も嬉しいのだから。





 ──その理由が何より重要だったなんて、私には気がつける訳もなかった。

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