第5話


 それからトントン拍子に話は進んでマンションを借り、同棲。両家の親にも挨拶をすませ、入籍した。


 結婚式はまだ先の予定だけど、お互いの会社の人には報告だけ。旦那様は副社長という地位に就き、近いうちに妻である私のお披露目会も控えているそうだ。


 もちろん結婚したんだから、と何度も身体も重ねた。彼にとってはただの欲の捌け口なのかもしれないけれど、他の女で処理されるよりはずっといい。


 そばにいられることだけで他は何も望まない私も、そんな好きでもない私と結婚してくれた彼も……どちらも普通の人からしたら可笑しいのには変わりない。




 ──ガチャ


 玄関のドアが開く音がして、私は動かしていた手を止めエプロンで拭きながら音のした方へ向かう。パタパタとスリッパの音を響かせて夫の帰りを出迎えるために。


「おかえりなさい、洸さん」

「……ただいま」

 以外にも洸さんは律義な人で、私が発した挨拶にほとんど応えてくれる。それが普通なのだとも思うけれど、淡白な彼からは想像もしていなかったから嬉しい。


「ご飯はもう少しでできますけど、先にお風呂にしますか?」

 鞄や背広を彼から受け取ってそう尋ねれば「いや、先に飯食う」とのこと。


 上着をクローゼットに掛けたらすぐに調理を再開。洸さんが待っているんだもの。急がなくちゃ、と手を忙しなく動かした。



「どうぞ、お待たせしました」

 彼を呼んでテーブルにお皿を並べる。黙って箸を手に取り、料理を口に運ぶ洸さん。

「ん、うまい」

 きちんとそんな言葉もかけてくれるんだから優しいものだ。

「よかったです」

 ふふっと笑ってしまって、慌てて口を手で塞いだ。


 いけない、笑ってしまった。

 笑うとお姉ちゃんに似てないから「あんまり笑うな」って言われてるんだった。


 そんな意味の分からない要求にだって応えてみせる。所詮、私は「お姉ちゃんの代わり」なんだから。


 そんな私を気に留めることもなく、食事を終えた洸さんはソファーで寛いでテレビを見ている。洗い物を終えた私もそんな彼の隣に腰掛けた。


「──お前さ」

 珍しく、洸さんの方から話かけてくれたから驚いて声がひっくり返ってしまった。

「なんでいつも、そんな嬉しそうなわけ?」

 彼の問いかけにポカンと口を開ける。


 ──そんなの、分かりきっているじゃないですか。


「嬉しいからですよ、あなたがここへ帰ってきてくれることが。私にとって、幸せなことだからです」


 そう言えば「馬鹿だな」って貶してくる洸さん。でも、その表情は満更でもなさそう。


「大好きです、洸さん」


 ねえ、洸さん。

 私はあなたを知れば知るほど、好きになっていきます。


「……はいはい」

 ぽんぽんと頭を軽く叩いてくれるから、制されていてもやっぱり笑ってしまう。

 好きな人の隣でいられるってことが、こんなにも幸せだなんて知りませんでした。




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