第2話

 お姉ちゃんの葬儀から一カ月が経った。


 私の脳内を支配するのは、あの日に出会った色白で冷たい目をした男のこと。


 ただの無礼な男だったのに、彼にもう一度会いたいと思ってしまう私はどうかしている。


「──おい、美緒」

 お姉ちゃんが亡くなって沈んでいた我が家の空気も、少しずつ温かさを取り戻し始めていた頃。お父さんが、私にある提案を持ちかけた。


「お前に、会ってもらいたい人がいる」


 その表情は、強張っていた。


 大体、想像はつく。お姉ちゃんの時にも、こんなことがあったから。


 有名な大企業の、そこそこいい役職についているお父さん。その会社の社長さんから勧められるお見合い。お父さんは乗り気じゃないけど、相手は会社のトップだから仕方がない。


 お姉ちゃんの時は一度会ったみたいだけど、そのとき既に後の旦那さんになる克己さんと付き合っていたから丁重にお断りしたようだった。克己さんはお父さんの会社と同じくらい大きな企業の御曹司だったから、社長もトラブルになるのを避けて諦めるしかなかったよう。


 それが、今回私にも回ってきたみたいだ。


「お前ももう24だろ?彼氏がいないなら……頼む」

 苦い顔をするお父さんにただ了承の言葉を返した。


 彼氏なんていないから、会うぐらいどうってことない。どうせ、いつかは誰かと結婚するんだから。愛してもいない人と、今時珍しい政略結婚する覚悟だってできている。


 ……一瞬、あの人の顔が頭をよぎったけど首を横に振って必死で頭から追い出した。




 私はお父さんの会社じゃない、小さなオフィスに勤めている。

 とてもアットホームな良い職場だし、それなりに上手くやれていると思う。


「ねえ、美緒ちゃん」

 私より一年先輩の川島由良くん。先輩後輩はあまり関係なく、名前で呼ぶしため口な時もある。


「どうしたの?」

 にこにこと笑う彼はこの会社でもムードメーカー。底抜けに明るくて、笑顔を絶やさない人だ。


 だからか、彼の三日月型の目はとても印象的。明るい茶髪が今日も揺れている。


「もう、大丈夫なの?」

 お姉ちゃんの死に、ひどく胸を痛めては泣きそうになっていた由良くんはとても優しい人だ。今も、私を心配してくれている。


「……大丈夫だよ」

 そう伝えたら、「よかった」と歯を見せて太陽みたいに笑う。感謝の気持ちを伝えれば

「美緒ちゃんは笑顔が一番!」

 だなんて、キザな言葉も彼が言ったら似合っちゃうから不思議だ。




「今度、お見合いすることになった」

 私の何気ない報告に、オーバーリアクションを取る。


「ええええっ!?」

 でもすぐに真剣な顔をしたかと思うと

「でも結婚するなら好きな人にしなきゃだよ?」

 そう忠告してくれる。


 ──ごめんね、素直に分かったなんて言えないよ。


 誤魔化すように笑って

「由良くんみたいな明るい人と結婚したら毎日楽しそうだよね」

 と言えば、彼は顔を真っ赤にして照れていた。




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