第2話 浄化の力

 黄金の光にどのくらいの間包まれていたのだろう。

 ひんやりとした感触を右頬に感じて私は眠りから覚め、ゆっくりと目蓋を持ち上げていった......が!


「!!!!」


 驚きのあまり一瞬にして頭が覚醒し、目を見開いた。

 眼前に広がるのは、見たこともない石で出来たこじんまりとした小部屋。

 考えたくはないが、似たような場所を私はよーく知っている。


『これって......留置場? え?! 私、捕まったとかそういう感じ?! にしても......』


 壁に使われている石はその辺の河原に転がっているような石ではなく、コンクリートでもない。大理石のようなお高い感じの石だ。

 部屋全体が大理石みたいな石で出来ている部屋。

 

 どこだ、ここ!? なんだ、ここ! 外国? ついさっきまで神社にいたはずなのに。

 

 ガバッと慌てて上半身を起こし、足を横に流した姿勢でその場に座り込む。


『あ、縄で縛られたりはしてないや』


 自由に動く両手足を見て少しほっとした後、気持ちを落ち着けてキョロキョロと辺りを見回す。


『誰もいない......』

 

 四方の壁には窓も無ければ、扉もない。しかし暗いというわけではない。

 ふと天井を仰ぎ見ると、軽く2階分はあろうかという高い場所にガラスのはまった大きな天窓があり、青空が見え、陽の光が降り注いでいる。


「あ、目が覚めた」


 聞いたことのない男性の声がする。

 声がする方を見たがそこに人の姿はなく、私を包んでいた黄金の光の集合体が、降り注ぐ陽の光以上の明るさでキラキラと輝いていた。


「ようこそ、僕の守る世界へ。ここは君がいた世界とは全く別の世界だよ。うーんと......君がいた世界でいうところの「アナザーワールド」や「パラレルワールド」 もしくは「異世界」と言われるところだね」


 光の集合体は言葉を発する度に、光り方が強くなったり弱くなったりする。 まるでそれ自体が生きて呼吸しているかにみえる。


 この光の集合体は神社で見たブルーの龍が姿を変えたのだと思うんだけど、先ほどとはまるっきり声が違う。

 いつもの神社で聞いた声は小学1年生くらいの子供の声だったのに、今は成人の声。しかも甘い系のイケボだ。

私は立ち上がり、光の集合体に向き合った。


「......」


 発する言葉が見つからない。聞きたいことは山ほどあるのに、何から聞いたらいいのか分からず、言葉が口から出てこない。

 呆然と立ち尽くす私に、光の集合体は、


「じゃあ、今から君に穢れを浄化する力を与えるね」

と、柔らかく告げた。


「え!?」

 更に聞きたい項目が増えて私の頭は混乱を極め、思考は停止し言葉の発し方を完全に忘れてしまう。


 そんな混乱する私を気にする事もなく、光の集合体はそばに寄ってきたかと思うと、投網の様な光をブワッと大きくひろげ、再び私の体に覆い被さってきた。


「ひゃっ!!!」


 いきなり襲いかかられかなりびっくりしたものの、光で全身を覆い尽くされた瞬間、私の体には冷え切った体を湯船に浸けた時に感じる全身を駆け抜ける心地よい軽い痺れと、体の隅々が芯まで温まっていくような感覚がもたらされた。

 ただ、右腕だけは暖かいというよりも「熱い」と感じる。

 まるで熱湯に手を突っ込んで いるかのようだ。


「あっつっ!!!!」


 あまりの熱さに、私は条件反射で声をあげた。


「ごめんね。だけどとても大事なことなんだ。我慢して」

 右腕の熱さは熱湯を通り越して火で焼かれているかのように熱くなり、痛も伴い出した。

 熱さから逃れようと右腕に力を入れて動かそうとするが、ピクリとも動かない。


「熱いっ! あっついぃっっ!!!」


 これ、本気で火傷とかしてるんじゃないの? 肉が焦げるような匂いはしないけど!

 実際の火に手を突っ込んだ事は無いけれど、火の側に長時間居た時に感じる熱さと痛さとは比べ物にならない感覚が右肩から右手の指先までを襲う。


「あと少し、あと少しだからね」

 1秒が何分にも感じられる。時間を測る余裕などなく、ただただ熱さと痛さに耐える。

 我慢することで全身に力が入ってしまう。

 力一杯目をつむり、歯を噛み締めて耐えていると、額からじわりと汗が滲んできた。

「うぅ......!!!!」

 汗が頬を伝い、顎の先からポタリと床に落ちた。


 __どのくらい経ったのだろう? すごく長い時間が経っているように感じるが、実際は大した時間は経っていないと思う。

 意識は朦朧とするも、持ち前の忍耐強さでかろうじて耐え忍ぶ。


 あまりの熱さと痛さに「もう無理っ!」と気を失いかけたその時、すぅーっと静かに熱と痛みが引き、遠くに行きかけていた私の意識もゆっくりと戻ってくる。


 はっきりと意識が戻った私は慌てて自分の右腕を見る。

 焼けたような痕はなく、警察の制服にすらなんの異常もなかった。

 ヒラヒラと自分の右掌を顔の前で裏表に向けたり、グーパーと握ったりしてみるが、特に問題はなさそうだ。


 右腕のに気を取られていたが、ふと気づくと全身を包んでいた暖かさもいつの間にか消えている。


「はい、お終い。お疲れ様。よく気を失わずに耐えてくれたね。ありがとう。これで君は 『浄化の力』が使えるよ」

 光の集合体が私の体から離れると、徐々に人の姿へと形を変えていく。


 姿を現したのは、長身で背中まであるサラサラの薄いブルーの髪の青年。白色のシンプルなワンピース......いや、ギリシャ神話の神様が着ているようなヒラヒラとした服を身にまとっている。推定年齢25歳というところか。

 職業柄、即座に相手の特徴や服装、年齢を観察してしまうのは悪い癖だ。


しかし、異世界にぶっ飛ばされたと言われた時から「こういう事」が起こるんだろうなとある程度予想していたが......実際に起こるとモヤモヤするものがある。


 「こういう事」とは、今までお目にかかった事もないような完璧イケメンの登場だ。

 そして、モヤモヤの正体は、どれほど完璧イケメンでも「全く」「恋愛対象として見られない」という事だ。

 「はぁ、福眼、福眼」という感想で終わってしまう。

 本当にあと20年早く召喚して欲しかった。神様のバカ!! って、目の前にいるのが神様か......。


「改めて、僕はジュライ。この世界を守る存在の一体だよ。よろしくね」

 

 「はぁ......」というため息しか出てこない。

 初めて見た時は龍の姿で声は小学1年生くらいの男の子だったのに、今はキラキラオーラが見えるほどの高貴な顔立ち、しかも甘い系のイケボ。

 ギャップ萌えなどというレベルの問題ではない。


 待て待て!そんなことよりも、今、自分が置かれている状況を確認する方が大事だ! 現状確認と状況把握は次に何をどうするべきなのかを考える為には必須条件だ。

 私はジュライと名乗った青年に向き直り


「ここはどこなの? どういう世界なの?」

 

 と、まずは自分のぶっ飛ばされた世界についての知識を得ることにした。

 この世界を守る神様なのだから、誰よりも詳しいだろう。

 元いた世界とは必ず何かが違っているはずだ。そこのところをできる限り把握したい。


「冷静なんだね。うんうん、いいね」

 ジュライは嬉しそうに、かつ満足そうに微笑んで頷いている。

 何がそんなに嬉しくて満足なのかさっぱり分からないが、質問すべき事はそこではない。


「最初に言ったとおり、ここは君のいた世界とは違う世界だよ。まず、文明の発展度が違う」

 優しげな微笑みをたたえながら、ジュライは告げた。


「君の世界にあった、電気、通信の類はない。高速での移動手段である電車や車、飛行機もない。この世界での伝達方法は手紙。移動手段は徒歩、馬、馬車、船__だけど、一部地域には機関車がある」

「元の世界の明治時代初期? いや幕末くらいの文明って事か......」

 自分が歴女で大の漫画好きでのおかげで、何となく想像はできる。


「君がいたのは日本と呼ばれる国だったよね? ここは......そうだね、ヨーロッパという国に近い。王政がしかれ、国王と貴族がいる」

 という事は、中世ヨーロッパを想像したらいいのか。だからこの場所も石造りなんだ。


「あと、君のいた世界と最も違うのは、魔力が存在する」

「魔力!? それって、魔法が使えるって事!?」

 これは確実に異世界だ!


 驚きと共に嬉しさが込み上げてきて、口元がにんまりと歪んでしまう。

 魔法......なんて素晴らしい響きなんだろう!呪文を唱えて炎を出したり、仲間を治癒したり、なんなら空なんか飛んじゃったり!!

今ならウキウキ気分で魔法なしでも空を飛べそうだ。


「うん、そうだよ。あ、でも君は魔法を使えないからね」

 依然として微笑みを絶やさず、絶望的な一言が私に放たれた。

「君はこの世界で生まれた者じゃないから、魔力を一切持っていない。だから、魔法は使えないんだよね」

 喜んで浮かれた分、思いっきり地の底に叩き落とされた気分だ。


「ただし、君には今、僕が授けた『浄化の力』がある」

 あ、さっきの死ぬかと思うほどの熱さと痛みを我慢させられて付与されたやつね。

 私はチラリと視線を自分の右腕に向けた。


「僕が君に授けた『浄化の力』は、この世界にはびこる穢れを取り除くことができるんだよね」

 ジュライは右手の人差し指を顔の横で立てて、満面の笑みを浮かべる。

 何がそんなに楽しいのか全く分からない。

 私は魔法が使えなくて、かなりがっかりしているというのに......。

 私は「はぁ」と小さくため息を吐いた。


「さて本題だね」

ジュライの声が真剣みを帯び、声の質がかたくなった。

 さすがの私も、ジュライを取り巻いていた柔らかな空気がピンっと張り詰めた事を感じ取り、気持ちを引き締める。

 魔法が使えないことにがっかりして俯いていた顔をあげ、真顔で彼の顔を真っ正面から見つめる。


『瞳も髪と同様に薄い青色なんだ。まるでアクアマリンみたい。本当に比の打ち所のない綺麗な顔のイケメン......』

 その綺麗な顔を見てしまうと、どうしてもは真剣な心持にはなれなかった。


「今この世界では、穢れという負のエネルギーが強大な力を持ってしまった状態なんだ。......穢れ自体は自然界には当然存在するものなんだけれど、世界に人が現れてからそれらは勢力を伸ばしてきた。人に取り憑いて悪事を働き、またはそれ自体が具現化して人々を襲っているんだよね」

うーん、いかにも異世界らしい。


「穢れの力を弱める魔力も存在するんだけど、あくまで弱めるだけで消し去る事はできないんだ。そして、穢れを弱める魔力を持つ者は希少だから、現在その魔力を持つものは全員王宮直属の魔術士として、各地で発生する穢れの弱体化に日々東奔西走中なんだ」

「はぁ......」


「そこで君に来てもらったわけなんだよね。この世界の人々は既に何かしらの魔力を備えている。『浄化の力』も魔力の一種みたいなものだから、魔力を持つ者には付与できないんだ。この世界の人間は2種類の魔力を持つことができないんだよ。だから別の世界から魔力を付与できる者を連れてきて、『浄化の力』を与えるしかなかったんだ」


「はぁ......。え? この『浄化の力』って魔力なの!」

 魔法が使えないことでがっくりしていた私に希望の光がさした。


「魔力の一種だけど、似て非なるものだよ。この世界に存在する魔力は相当の鍛錬をしなければ使う事が出来ない。魔力は生き物や自然、全てのものに効果があるからね。火の魔力を持つ者が誰しも簡単に火を操ったり出来てしまうと、便利ではあるけど色々と問題も出てくるからね」

 そりゃそうだ。鍛錬も無しに魔法が使えてしまうと、力加減ができずに危険極まりない。

 喧嘩をしたら相手は丸焦げ、気に入らない奴の家は火事になりかねないってことだ。


「『浄化の力』は穢れにしか効果はない人畜無害な力だから、鍛錬を必要とせず簡単に使えるんだよ」

なるほど。生き物や自然に優しい魔力ってわけか。


「で、どうやって使うの?」

 想像した魔法じゃないけど、魔法みたいなものが使えると思うと、ワクワクする気持ちが止められず、少し身を乗り出すようにして聞いてしまった。


「右手に特別な力を与えててあるからね。右手に触れた物全てに『浄化の力』を込める事ができるんだよ。例えば剣に力を込めれば、具現化した穢れに物理的な攻撃を与える事が出来て、さらに生命力を削る事が出来る。もちろん、右手に力を込めてそのまま殴ったり叩いたりしても生命力を削ることは出来るよ。そして君の『浄化の力』が穢れの生命力を全て削り取り殺す事が出来たなら、穢れは完全に消滅する」


 なるほど......だから右腕全体に、強烈な熱さと痛みがあったのか!

 死を連想させる程の苦痛。そういうリスクに応じた力がしっかり与えられてたわけだ。

「じゃあ、私が力を込めた剣を、他人が使って穢れを攻撃することはできるの?」

「できるよ」

 ジュライはあっさりと肯定する。


「じゃあ、じゃあ! 私がたくさんの剣に力を込めて、後は腕の立つ剣士がその剣を使って、具現化した穢れをバンバン倒していったら万事解決じゃない! 私も戦闘に参加しなくていいし」

 その方法なら私は身の安全を確保されるし、穢れの浄化も出来て一石二鳥! この上ない最善策を笑顔で言ったのだが__


「それは無理」

満面の笑顔で、ばっさりと否定された。


「『浄化の力』には有効範囲があるからね。もし他人に『浄化の力』を込めた武器を使わせるのなら、君は武器から......そうだねぇ、半径3メートル以内には居ないといけないね」

 結局、戦闘の現場には立ち会わないといけないって事か。まぁ、仕方ない。荒れた現場は慣れっこだ。


「それから、君の身体は内部に至るまで『浄化の力』を施してあるからね。一種のバリアみたいなものだから、君の体は穢れに取り憑かれる事は無いし、力の弱い穢れなら、君のそばに近寄るだけで浄化される。ただし、具現化した穢れの物理攻撃が効かないというわけじゃないから、その事はしっかり覚えておいてね」


 なるほど、なるほど。弱い穢れは私のそばに寄るだけで死んでしまうのか。それって、 蚊取り線香と一緒って事!?

 それと、具現化した穢れの物理攻撃はダメージくらっちゃうんだ。ん?それって......


「私、死んじゃったりするわけ!?」

「うん、もちろん。具現化された穢れの直接攻撃や間接攻撃で、君の生命力がなくなったら死ぬよ。君の世界の物語では死んでも生き返るって話があるみたいだけど、残念ながらそれは無いからね。命は一つっきり。死んだらそれでお終いだからね」

 まじか......。昔やったゲームのように生き返りの魔法は無いのか。

どの世界に行っても人生は一度きり。やり直しはきかない......。当たり前か。


「さて、僕はそろそろ行くね」

 ジュライの体が徐々に透けてゆく。


「ちょ、ちょっと待って! なんで? なんで私なの! 別世界の魔力を与えられる人なら、もっと若い人が良かったんじゃないの?」

 私は慌て、消えゆくジュライのそばに駆け寄った。


 だって、私の中で一番の謎が解けていない!!

 そうだよ! アラフォーが異世界召喚なんて聞いたこと無い!!

 こういうのはもっと若い女子高生や20代前半の誰にでも好かれる容姿と性格を持った可愛い、もしくは綺麗な女の子っていうのがセオリーで、特別容姿に恵まれたわけでも無く、性格だって好き嫌い激しい、至って平凡なアラフォーの私が選ばれた意味がわからない!!!

 独身を謳歌しているから生活感がない分、35歳くらいにはギリで見えるかもしれないけど、それでもアラフォーはアラフォーだ!

 

 ジュライは少し自嘲的に笑って

「この世界に来たのは君が初めてじゃないんだよね。この世界を救うため、僕が『浄化の力』を授けた者は何人もいたし、今もいる。過去の経験から僕も色々学んだんだ」


 私が初めてじゃなかったんだ。

 何度も異世界人に『浄化の力』を授けてきたんだ。 だから、ジュライは少し弱っているように見えたのか__。

 自分が在る世界を守るために、ジュライはずっと頑張ってきたんだ......。

 でも、その努力が報われてない!報われていないから、今度は私が連れて来られたんだ。

 

 に、してもだ! まだ私が選ばれた理由がわからない!!


「まだ分からない。何で私なのかが! あの神社が関係あるの? だとしたら、もっと大きくて有名な神社はたくさんあるのに、もっと神秘的な力を持った人はいっぱいいるのに! どうしてあそこだったの? 何で私だったの!!」


 理由を探し聞き出したところで、今、私がここにいるという現実が変わるわけではない。

 それでも知りたかった。自分がここに連れて来られた本当の理由が!


「君は知らないだろうけど、神々の世界は全ての次元に繋がっているんだよ。君が選ばれたのは君のいた世界の神たちが推薦したからなんだ。それに、君が向こうの世界で見た僕と話していた相手は僕の兄さんなんだよ」

 ジュライが嬉しそうに言う。


 嬉しそうに微笑むジュライの顔に、どこか寂しそうな陰が見え隠れしていることに気づき、私はそれ以上ジュライを責める事が出来なくなった。


きっと各々の世界を守る事に必死で、お互い顔を合わす機会なんて今までなかったのだろう。

そんな兄と一時でも会えた事はジュライにとっては__ 特に自分の守る世界が危機的状況で、自らも疲弊し弱っている時に兄と再会出来たことは、この上なく嬉しかったに違いない。それと同時に次にいつ会えるのか......もしかしたら2度と会えないかもしれないという一抹の不安もあるのだろう。


「ジュライ、最後に一つ聞いていい?」

ほとんど消えかけているジュライに私は静かに尋ねる。


「私は元の世界に帰れるの?」

 

 元の世界が恋しいというわけではない。 恋しくないというのも嘘になるが。それ以上に心配なことがある。


 元の世界で私は勤務中に忽然と姿を消した状態だ。しかも警察の制服から無線機、貸与品、果ては拳銃まで持ったままなのだ。

 この状態で行方不明なんて事になったら、警察は必ず私を探す。変死体でさえなければ、私という人間の生死は関係ない。

 問題は私が持っている無線機や貸与品......拳銃だ。

無線機や貸与品、拳銃は失くしたら全国手配になる。

 私の持ち物探しで他の警察官の休みは全部ぶっ飛んでしまい、当然相当恨みを買うことは間違いないし、上司のねちっこい嫌味混じりのお説教と大量の始末書がもれなくついてくる事も確実。

 もしかしたら、本部長に土下座......果ては懲戒免職なんてこともあり得る!

 任務終了後に元居た世界帰れるとしても、そんな地獄のフルコースが待っているような所に帰る事になるのだから、私はかなりの覚悟を持たなけれなならない。


「帰れるかどうかは、君次第だね」


 なんて曖昧なっ!!!


「さすがに疲れたから、もう行くね。この国の神官にはここに新しい神子を連れてきた事は伝えておいたからね。もうすぐ迎えが来るよ」

「神子???」

「そう。『浄化の力』を使える者は『神子』と呼ばれてるんだよ」

 何とも全身が痒くなるような呼び名だ。

 そんな呼び名で呼ばれたら、照れくさ過ぎて全身に鳥肌が立ちそうだ。


「何か聞きたい事や大きな問題があったら僕の名前を呼んだらいいからね。じゃあ、この世界をよろしくね、神子殿」

 気恥ずかしさにボフッと顔は一気に蒸気し、ブワっと全身に鳥肌が立った。

 ジュライのやつーっ!

 あいつ、絶対私の思考を読んだんだ!わざと神子って言いやがった!!


「バカーーーっ!!!」

 

 ジュライが今まで立っていた場所に向かって、私は思いっきり大声で叫んでいた。

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