23

俺が沙耶を懲らしめてやろうなどど、子供じみた画策をしているあいだに、彼女に何かあったようで、微妙な変化があった。


「なんかヤバいか?」


だけど焦ったのは俺だけで、この間は毎朝読む新聞のページをシャッフルして束ねてあった。



「あいつめ、今度こそ許さないぞ」


仕返しを反省した俺が、馬鹿をみた。

次の日も、その次の日も、沙耶は小さな意地悪を仕掛けていたが、さすがに仕事に支障をきたすようなことはしなかった。

そんなとき、花畑の令嬢が再度来ることになった。

理由は簡単で、園遊会に来た理由は、直接親父に見合いの話をすることだったのだが、宴が盛り上がってしまったために、後日に変更したからだ。

先延ばしにしても良くない。

面倒なことはさっさと済ませてしまいたい。


「今日、園遊会にみえた頭取のご令嬢が来社される」

「畏まりました。来社される時間は?」

「3時にみえる予定だ」

「畏まりました」


少しずつ機嫌が直ってきたところだったが、また逆戻りをしてしまったようだ。

普通にしているつもりだろうけど、声が尖っている。


「あいつのせいで、俺達に黒い影が落ちている。どうしてくれようか」


修二も俺に見合いのことを念押しするようにいい、親父も母親も俺に見合いのことをせっついてきた。

沙耶とはうまくいかず、修二も親も俺に頼りきり。


「じゃあ、俺は誰に頼ればいいんだよ」


真ん中の弟は、既に社内で働いているが、なんだか最近悩んでいるようで、俺に相談してくる。それも女のこと。


「知らんがな」


癒してくれるはずの沙耶は意地悪だし、俺も意地になって令嬢の正体を言っていないし。

うだうだと仕事をしていると、花畑の令嬢が来たと連絡があった。

やっと終わる。

沙耶が連れてきた彼女は、秋も深まって来たというのに、春のようなぴらぴらした装いで現れた。


「ようこそ」

「お仕事中にお邪魔いたしまして」

「いいえ、私が招待したんですから」

「お茶をお持ちいたします」

「ありがとう」


令嬢をソファに座らせると、軽く雑談をする。

令嬢は経営を学ぶために、留学を予定しているとのことで、留学経験のある俺に、アドバイスが欲しいと言った。

自分の経験を話し始めていたころ、お茶が運ばれてきた。


「水越の淹れたコーヒーはおいしいですよ」

「まあ、楽しみです」


沙耶はそれを聞いてにっこりと微笑んだ。

怖い。

アダムスファミリーという映画を子供のころ観たのだが、その母親役の女性がにっこりともにやりとも表現しがたい笑いが怖くて、自分の母親の笑顔でさえも怖かったことを思い出した。

沙耶が社長室を出ていくと、コーヒーを口に付けた。


「げほっ、げほっ!」

「だ、大丈夫ですか?」


またやったな。

少しやりすぎたかなと反省していた俺を、沙耶はまたしても砂糖攻撃を仕掛けたのだ。

俺は怒ったぞ。

ぜったいに許さないからな。

みっともないところを見せてしまったが、和やかに会話は進んで、親父と約束していた時間になった。


「会長室に行ってくる」

「畏まりました」

「コーヒーがとてもおいしかったです。ごちそうさまでした」

「恐れ入ります」


沙耶はしおらしく頭を下げたが、ぜったいに舌をだしているに違いない。

会長室に令嬢を連れて行き、そこで話し合いがもたれて、親父も納得した。

臆せず自分の意見をちゃんと言える、素晴らしい女性だった。

手配した車に令嬢を乗せて、社長室に戻ると、沙耶はとっとと退社していた。


「あんにゃろ、今日こそ捕まえるからな」


いつも俺が終わるまで待っているのに、そそくさと帰ったところを見ると、友達と合コンでも行ったに違いない。

沙耶から友達と合コンをしていたと、聞いたことがあった。

むしゃくしゃすると、合コンをするとも聞いていたから、ぜったいに今日は合コンに参加をしているはずだ。

すぐに追いかけて連れ戻したかったが、仕事も終わっていない状態で女を追いかけるとこは出来ず、しぶしぶデスクに向かう。


「よし終わった」


集中して処理したおかげで、早々に仕事も終わり、沙耶に電話をかけるが、かけてもかけても全然出ない。


「出ないつもりだな。こうなったらこの手を使ってやる」


社用のスマホは、いつも持ち歩いている。

今まで使う必要もなかったから、利用したことはなかったが、とうとう使うときが来てしまった。

位置情報。

それを駆使して居場所を突き止める。


「やっぱり飲んでるな」


胃腸も万全ではないのに、酒など飲んでいけない子だ。

これはしっかりとお仕置きをしてやらなきゃいけない。

俺というものがありながら、合コンなんかしやがって、怒りも頂点だ。

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