17

「船酔いもなくて安心したよ」

「乗り物酔いはしないんです」

「良かった」


クルーザーデートが終わり、下船するとリムジンが待っていた。来るときは社長が運転した車だったけど、帰りはリムジンだ。

確かにワインを飲んでいたし、運転なんかしたら、飲酒運転になってしまう。

二人で後部座席に乗って、私は腕を組んで肩に頭を乗せる。一時も離れたくないのだ。

車から見える景色もまたいい。今思ったけど、社長と一緒に見る景色ならなんでもいいのかも。

マンションに着いて車を降りると、夢のデートが終わる。

家に入ると、社長に抱きつく。


「楽しかったぁ」

「時間が取れなくて悪かった」

「また、言って。秘書なんですよ? 私」


今日のデートだって、忙しい最中に調べたり、予約をしたりしてくれたその時間も、私のことを考えていてくれたんだと思うだけで、嬉しい。


「強がりはよせ、寂しがり屋のくせに」

「え……?」


なに? 社長はなんて言ったの?


「俺が我慢をさせてしまってるんだな。悪い……」

「……」


やめて、涙がでそう。私が今の私を保っていられるのは、しっかりした女でいなくちゃという気持ちから。

いつでも誰かに寄りかかりたくてしょうがない自分を、社長秘書になってから自分の足でしっかりと立つと決めたのだ。

愚痴を言ったり、ぶつけたかった気持ちも封印して、自分をコントロール出来てこそ、キャリアを積む女だと思っていた。


「俺の前では甘えていいんだよ」

「社長はいつゆっくりするの? 私が癒してあげたいと思っているのに」

「沙耶がいてくれるだけでいいんだ」

「……」


もう限界。目に溜まった涙は、止めておくことが出来なかった。


「泣くな……泣かれると弱い……」


とても優しい顔で私にキスをする。


「何を食べたらこんな可愛い顔になるんだ?」


何ですって!?

社長のどこからこんなセリフが出てくるの? 腰砕けじゃなく一瞬、気を失ったはず。

次に受けたキスは、いつものキスと違う。私の足はぴょんと後ろに跳ねた。

キスは直ぐには終わらず抱き上げられ、寝室に向かう。


「沙耶、本当に美しい。周りが君を見ているのが分かったか?」

「いいえ」


だって私は、社長しか目に入らないし、社長以外の男は雑草よ。

社長は私を引き寄せ、熱い視線で見つめる。


「美しい」


そんな言葉を何度も言われたら、体温が上がってしまう。それは社長も同じだったみたいで、お互い求めあうように唇を重ねる。


「誰もが振り返るほど、君は美しかった」

「もうやめて……恥ずかしいから……」


私はみんなに言われたいんじゃなくて、社長にだけ言われたいのだ。他の人の言葉なんかいらない。

社長の首に腕を回して、キスを強請る。社長はそれに応えてくれるように、熱いキスを返してくれる。背中を社長の手が這い、私の熱量も上がってくる。

ジャケットを脱がして、ネクタイ掴んで引き寄せキスをする

背中を這っていた手が、ファスナーを降ろすと、シルクの軽いワンピースは、空気を含んで広がりながらゆっくりと、身体のラインを添って降りて行った。


「随分手慣れているんですね?」

「脱がせるのは得意だ」


嫌味で言ったのに、いとも簡単に返すのは、やっぱり慣れてる証拠。


「ふん」


膨れてそっぽを向くと、顎を掴んで唇を奪う。

キスを受けながらシャツのボタンを外すと、ベッドに押し倒される。


「忘れてるあの夜を、もう一度思い出させて……」

「あれはリセットだ」

「リセット?」

「愛してるよ」


その言葉を最後に、私は五代真弥の世界に引き込まれていった。

男としての熱い視線、私を欲しがる視線が全て私の物。

弥生がうまいことを言った。

「五つ星の男」

本当にうまいことを言う。大企業を動かし、下手したら政界まで動かす影響力がある男が、私の一言で服従するなんて、女冥利に尽きる。


「あ……もっと……」

「強請られるのは嫌いじゃない」


大胆になる私を、自分でも驚いている。でも社長はそれがいいみたいで、意地悪に焦らして楽しむ。でも最後には、愛の言葉を囁く。


「沙耶、愛してる」


焦らして意地悪だけど、許そう。

今夜は熱い吐息で、私を包んで欲しい。何回でも受け入れる準備は出来ている。長く熱い夜は始まったばかりだ。




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