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「園遊会の賞品は、社長が手配をして下さるそうよ。みんなありがとう」

「社長の鶴の一声ですね」

「そうよ」


予約が取れなければ、取れるようにしたらいい。経営の駆け引きと一緒だ。


「今年の園遊会の天気はどうかしら」


ネットで月間の天気予報を検索する。すると、中旬は季節の変わり目で雨もあるけど、下旬からは安定した秋晴れが続くとなっていた。


「良かったわね」

「そうですね」

「で、どうします? その日」


園遊会の日は無礼講。

昼から始まって、夜の7時までが園遊会の開催時間だ。こんなに長時間に渡り、催し物をやっている会社なんかないだろう。

仕事をしながらでも参加は可能で、終業時間後には、歌うま選手権や、一芸を披露するイベントも催される。

その賞品が役員たちから出される品物なのだ。

「昔は恥ずかしがり屋ばかりで、参加者はいなかった」とぼやいていた取締役も、

「最近の若者は、隠れた才能があってすごいなあ」と感心するほどで、オーディション並みにレベルが高い。

夕方になると、招待状を送付していた取引先企業の社員も来たりして、あちこちで名刺交換と頭を下げる姿が見受けられる。


「役員たちの予定は?」


役員たちの動向で私たちの行動も決まる。社長は毎年ホストになるので、来客の対応に忙しい。

秘書である私は、一緒に行動するのが当たり前なんだけど、園遊会のときだけは労いを込めて、秘書を解放してくれているのだ。


「今年も何もないので、自由ですよ」

「じゃあ、いつも通りでいいんじゃない?」

「そうですね」


新年会、暑気払い、忘年会と飲む機会はあるけど、園遊会は色々な料理が振舞われ、イベントあり、尚且つ無料だから大いに盛り上がる。

秘書課の女子たちと園遊会でお腹を満たし、終業後には飲み会に発展する。

つい先日までは、金木犀の香りが中庭を包んでいて、今は紅葉が見頃になっている。

忙しくて季節を感じる暇がなかった時でも、中庭で季節の移り変わりを感じていた。


「今年も料理は凄そうですよ」

「中庭で食べたいけど、席取りも難しそうだから、カフェを陣取っちゃいましょうよ」

「カクテルまでありますよ! いつもチューハイとビールだけだったのに!」


仕事そっちのけでしおりを見て興奮する女子たち。去年までだったらあの中心にいたのに、今年はなんか気が乗らない。

会社で一緒にいられるから平気、なんて嘘。社長の時間を全部私にちょうだいと、欲が出るのを我慢しているだけで寂しくてしょうがない。強がりもいつまで続くか分からない。

なんでも見通してしまう社長に気づかれないように、私は必死に演技をする。

確かに甘えるのは得意だけど、何処か一線ひいているのは、付き合っているという確信が、ないからだろうか。


「みんなは予定ないの?」


彼氏持ちの秘書達だからデートでもするかもしれない。秘書課の集まりに無理していることはないだろう。


「園遊会は別ですよ、楽しいじゃないですか」


ねえと言いあう。

ここ数年「玉の輿課」の異名をとる秘書課では、寿退社がなかったが、周りの子たちは、着々と準備を始めているらしく、近いうちに退社をしていく予定だ。念願叶って恋人が出来たけど、社長との結婚なんてまだまだ先だし、約束もプロポーズもされていないし、出来るかどうかも分からない。ううん、多分無理。

恋が叶っただけでも満足しなければ、罰が当たる。

「玉の輿課」なんて呼ばれているから期待しちゃっているだけで、こんな大企業の妻の対象にはならない。

しっかりした家柄のお嬢さんで、会社や社長にとって有益になる女性が妻になるべきだろう。条件付き、期限付きの恋愛だと思えば、後悔しないように付き合いが出来るし、終わりが来た時にも悲しむことはない。

社長と結婚できるなんて物語の中だけ。現実はそんなに甘くない。

だとしたら私の婚期はいつになるのだろう。

結婚と恋愛は別だというけど、結婚は望んで出来るものじゃない。


「水越さんも、園遊会は秘書課の参加で大丈夫ですか?」

「もちろん」

「席取り頑張ります」


下っ端の神原さんが張り切って言った。

物事を難しく考えるのは性にあってない。今は園遊会を楽しむことだけを考えよう。


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