12

「お腹が空いてコンビニに買い物に行ったんだけど、心配した社長が来てくれてね、うふふ……ショートパンツのルームウエアを着ていた私の脚を隠すように、自分のジャケットを腰から結んでくれたの」

「え~それは羨ましい」


マコが言った。


「でしょう?」


マコは私と同じように、夢見る少女のようなところがある。弥生の冷めた顔をよそに私達は盛り上がる。


「男の視線があることを忘れないようにって! 俺様な感じで言ったりしないの。紳士でやさしく諭すように言うのよ? 堪らないでしょう?」

「ねえ、その先が知りたい~」

「その先?」

「その先って言ったら、その先よ、ねえ?」


弥生とマコが言った。言いたいことは分かった。


「聞いてくれる? ないの……」


私のテンションはだだ下がり。

確かに体調が万全の体勢で受けたいとは思っていたけど、やっぱり落ち込んでしまう。


「ない?」

「一緒のベッドで眠ってたのに……」

「あっ、そう……なの?」


私の落ち込みっぷりに二人は言葉がない。


「体調を気遣ってくれたのは分かるんだけど、キスだけってさあ」

「社長が大人なのよ。見る限りすこぶる元気だから近いうちにあるわよ」

「そうよね」


意気揚々と話をしていたけど、この問題に直面すると、私は落ち込むばかり。性欲が強いわけじゃ無いけど、封印してきた欲が一気に解放されてしまった今、発散せずにはいられない。

料理そっちのけで話に夢中だったけど、食べる気も失せて来た。


「普通に考えたらよ? 告白して付き合い始めて、早くて2,3週間したらベッドインじゃない? それ全部吹っ飛ばしてセックスしてるんだから、少し間を置いたっておかしくないわよ。それに沙耶の体調が良くなったら、眠れないほどの激しい毎日が待ってるわよ」


弥生が励ましてくれるなんて嬉しい。

弥生の言う通りで、私の場合はとんでもないハプニングから付き合いが始まっている。それを考えたら、なくても変じゃない。


「社長も男盛りだから、沙耶の方がダウンしちゃうかもね」


マコはにやにやしながら言った。


「そうよね。いきなりやっちゃったんだから、少し大人しくしてそれからよ、そうよ、そうよね!」


一気に元気になって来た。我ながら単純だと思うけど、こういうとき友達って大切だと感じる。一人で落ち込むより、分かち合えて励ましてくれる友達がいると悩みも半分になる。


「ねえ、いつから社長が好きだったの?」


何も教えていなかったマコは、いい質問をする。


「社長秘書になったときから」

「え!?」


箸を落としそうなほどびっくりしていた。私だってびっくりしている。年数にしたら7年で、こんなに純粋な人いるだろうか。始まりは最悪だけど、私と社長は純愛なのだ。


「沙耶って、一途だったのね……」

「そうなの、自分でも知らなかったんだけどね」


わき目もふらず社長一筋。本当に一途。


「ねえ、社長のどこが好きだったの?」


それまで興味なさそうだった弥生が、そのことには食いついた。


「そう言えば、私も聞いたことが無かったかも。どこが好きだったの?」

「お顔」


私の答えに二人はあきれ顔で、食事を続けた。


「うそ、嘘だってば」

「まったく、早く話せ」


弥生が怒る前に、冗談はやめておこう。


「好きになるのに理由なんかいる? ってよく聞くけど、本当にそうだった。気が付くといつも見守るように傍にいてくれて、厳しかったけど、丁寧に仕事も教えてくれた。社長なのに偉ぶることなんかなくて、人一倍勉強して努力をしている人だった。優しいとか思いやりがあるとか、そんなことじゃないの。尊敬できる人に初めて出会って、それが恋になったわけ」


真面目な話になってしまったけど、本当だ。顔だってスタイルだって好きだけど、それが一番じゃない。


「尊敬だよね。それ分かる」


弥生もマコもキャリアアップして頑張っている。


「若いときは、何処に連れて行ってくれたとか、イベントをしてくれたとか、プレゼントとか、愛されていることを形にしてくれないと嫌だったけど、なんていうのかな……躓きそうなときには手を差し伸べて、叱ってもくれるけど、見守ってもくれる。そんな人がいい……」

「私達も分岐点かもね」


弥生が言った。やっぱり2と3で大きな違いを弥生も感じているんだ。

大きく変わる女の年齢。私の恋バナを聞いてもらう会だったけど、最後は女の人生と年齢について哲学的な話になってしまった。

話しがそれるのが、女。

恋も仕事も全力投球だ。

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