17
普通に振舞ってはいるが、私の神経は磨り減るばかりで、疲労がさらに蓄積されていった。
会議は白熱し、予定していた時間をオーバーして終了した。
私は会議を抜け出し、次の予定を組みなおす。運よく今日は社内作業が多く、外に出ることもない。社長の配分で仕事をすればいいだけだが、私の準備がある。秘書課に連絡をして、今日の予定分の資料を社長室に運ばせる。用意さえしておけば、社長は文句を言わない。
「はあ~」
社員用の自動販売機でエナジードリンクを買い、一口飲む。自社商品のみの自動販売機は、IDカードになっている社員証をかざせば、無料で飲めて非情に助かる。これで元気になればいいけど、全然効果はない。更に自社製品のサプリメントも飲んでいるけど、全く効き目がない。小麦粉を丸めた薬を売ってるんじゃないんだから、どうにかしなさいと開発部に言いたい。
「いたたた……」
胃が痛い。デスクに戻って、バッグから薬を出して飲む。市販の薬ではもう効かないのかもしれない。これだって自社製品なのに、効かないとはどういうことだ。お客様相談室に電話をしてクレームのひとつも言ってやりたい。容量を守ってと注意書きがあるけど、既に容量を超えないと、痛みが治まらない。
「なにしてんだろう、私……」
仕事に対する意欲が、わかなくなっている。パソコンの画面をじっと見て、デスク周りをなぜか見渡す。自慢のポストだった。
ここに来るまでに、自分でも相当な努力をしたと思う。それが今は、どうってことのない物に見えてしまう。母親が「会社は人生の一部であって全てではない」といつも私に言っていることを思いだす。
「お母さんの言う通りなのかも……辞めようかな……」
私は、心から辞めたいと思った。
気が滅入っている時は、発散するのが一番だ。
そんな時は、弥生に電話をする。秘密を共有する友人は、私にとってストレス発散の窓口になっている。
『少し休んだら? 有休も使ってないって言ってたじゃないの。辞めるのを考えるのは、有休を取ってからでも遅くないわよ』
辞めたいと思う。何度も弥生には言っていたが、今日は違うと、相談の電話を掛けた。
「そうよね……」
『使わないと勿体ないわよ? 有休は社員の権利なんだから』
「ほんとよね」
ファイブスターの就業規則で、有給休暇を使用せずに溜めておけるのは、40日までと決まっている。私は毎年、何日も捨てている状態だ。
『辞めるのは最終手段で、まずは、有休を使って休んで。疲れてるからそんなことを考えちゃうのよ』
「わかった」
『心の休養は、身体の休養より重要よ』
「本当ね」
やっぱり誰かに相談出来るのはいい。少し気が軽くなる。
「休もう……そうよ、使おう有休、休もう私!」
口に出して言うと、何かのスローガンの様だが、なんだか出来るような気がする。
今まで休まない社長に申し訳ないと、休みを取らないでいたが、申し訳ないなんて思うのがおかしい。逆に言えば、休みを取らせない社長が悪いのだ。経営者として、上司として、部下の権利を奪っているようなものだ。
「絶対に明日言ってやる! 待ってろ五代!」
強く決心を固め。久しぶりに気持ちよく眠ることが出来た。
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