15
「ねえ、一番欲しいものはなに?」
世間に疎くなっている私は、秘書課の女性陣に聞いた。
「シャネルのバッグ」
「カルティエの時計」
「ダイヤ」
即答で答えが一斉に帰ってくるが、賞品としては難しいバッグや、装飾品が次から次へと出てくる。聞いた私がバカだった。
「女性が賞を取るとは限らないでしょう? ユニセックスな商品にしなくちゃ」
「そうかあ、そうですね。う~ん」
難しいかと思ったが、少し待つと、やっぱり次から次へと出てくる。だが、どれもブランド品ばかりで、どうしようもない。社長が首を縦に振らないのは明らかだ。
私も人のことは言えない。身体が疲れて、頭の中に占める欲しいものリストは、サプリメントやマッサージといったものだ。それを商品になど出来るわけもない。
デスクにある女性誌をパラパラと捲っていると、神原さんが提案してくれた。
「今は健康志向ですし、ヘルス的な物。定期便のような感じで、健康食品が送られてくるとか、スパの年間利用券とか、そう言った商品はどうでしょうか?」
神原さんは手帳に書きとめていたのか、それを見ながら私に言った。いつでも対応出来るように何かまとめていたに違いない。
「そうね、それもいいわね。でも神原さん、私にそんなアイデアをくれたら、会長がお困りになるんじゃない?」
神原さんは、会長の第二秘書だ。社長より業務が少ない会長に秘書が二人で、激務な社長に私一人。神原さんに第二秘書になってもらいたい。
「会長は毎回決まっていますから」
「あ~、確かお食事券だったわね」
会長は食事券を出すレストランの会員で、会員制のレストランは一般人には夢のまた夢の物。敷居が高いけれど、人気の賞品だ。ちなみに会長は社長のお父様。精悍な顔立ちがよく似ている。
会長と社長は頑固な所が似ているから、意外と意見がぶつかっているかもしれない。私たち社員には見せたことが無いから分からないけど。自分の意見を通す社長だから、きっとケンカもしていると思う。
「はい」
「アイデアをありがとう。いつも助かるわ、神原さん」
「これくらいでいいなら、いくらでも……でも突然どうしたんです?」
そうなのだ。社長はいつもご自身で決めている。私にアドバイスなど求めたこともないから、彼女が不思議がるのは当然なのだ。
「いつもの社長らしくなく迷われているようでね、私に聞いて来たの。なんとか考えてみるわ」
すみません、と秘書課の同僚に言わせてしまい、少し後悔する。
「水越さん、最近顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか?」
神原さんに言われる。顔色が悪いのは分かっていて、ファンデーションで誤魔化していたけど、ダメだったようだ。
「大丈夫よ、ありがと」
心配してもらえるだけありがたい。でも、具合が悪そうに見えてしまったのなら、それは失敗だ。きっと社長も分かってる。気を引き締めなくちゃいけない。
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