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「まったく、いい加減なんだから」
占いはあてにならないし、信じたこともない。今年は厄年でもないのに、前倒しで厄が憑いているようだ。
「お祓いに行こうかしら」
占いには、思わぬ事態に巻き込まれると書いてあった。すでに巻き込まれている。いや、巻き込まれたのは社長で、巻き込んだのは私だ。
何も言わない社長に感謝をしたが、その反面ポーカーフェイスを気取る社長に、腹も立った。
「いたたた……」
社長の事を考えただけで、胃がキリキリと痛む。
私を喜ばせては落とし、落としては喜ばせて、社長は私を弄んでいる。何事もなかったように振舞い、仕事を続けていた。
思いだしたくない出来事の記憶が薄れていくと思ったら、そうではない現状に、仕事が集中出来ない。
そんな中、モヤモヤした気分を一掃できそうな催しが開かれる時期となった。
秋の園遊会だ。どこかで聞いた名称だけど、名前を頂戴したと言ってもいい。園遊会と言っても、公園でブルーシートを敷いて宴会をするわけじゃなく、会社の中庭にある日本庭園で、バイキング形式で食事をして、社員間の交流をするという物だ。参加は自由。時間だけが決まっていて、その時間内ならいつ来てもいいという、融通の利いた自由な宴会だ。会費はなく、全て会社の福利厚生費で支払われるために、大勢の社員が参加をしている。所謂、親睦会なのだ。
カラオケ大会や一発芸を披露する催し物もあり、社員は年に一度の園遊会を楽しみにしていた。
「園遊会が開催されますが、今年の社長賞は何になさいますか?」
催し物に参加した社員の中から、投票で1位になった者に、商品が出される。社長始め取締役、管理職までが商品を出すのだが、この商品が豪華で、年々商品目当ての参加者が増えていた。社長が先に商品を決めないと、他の役員が決められない。社長よりも高価な品物を出せないからだ。
「いつまでに決めればいい」
「まだ先ですが、早い方が宜しいかと思います。出来れば来週中には決めて頂ければ、助かります」
「そうか……君は何が欲しい?」
書類に目を通しながら聞く。
「え……?」
唐突に聞かれても返事が出来ない。何が欲しいと聞かれたこともなければ、商品の選択に関わったこともないのだ。
決断すべきことは、自分で決めるのが社長で、接待上必要な手土産は、私がセレクトして、最終決断は社長だ。指定された店舗で、社長が決めていた品物を取りに行くのが決まりだった。
「君は何が欲しい?」
社長は同じことを再度聞いた。今度は顔を上げて、私の顔をじっと見つめる。
「突然言われましても……」
「期日までに考えておくように」
「あ、あの……」
「午後の会議資料を私に送って。紙は必要ない」
「……畏まりました」
一度指示されたことは、必ずこなさなければならない。それは、期限厳守で猶予はない。それが社長のルールだ。仕事以上に難しい宿題に、私は頭を抱える。
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