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「もう……カッコいいし、なんて紳士なの? あ、ジャケット」


腰に巻いた社長のジャケット。腰から解いて、思わず抱きしめる。


「社長の香りがする」


暫くキュンキュンしていたが、自分の行動にびっくりする。


「嫌だ、変態じゃない」


急いでアイロンを出して、皺になったスーツのアイロンをかける。

高級そのもののスーツは、安価なアイロンでも見事に皺が伸び、気持ちいいくらいだった。


「社長と会話をしたの……初めてじゃない?」


社長は必要最低限の事しか話さない男だった。私が業務のことを話たりしても、大抵「分かった」の一言で終わりだった。

仕事で打ち合わせをするときは、会話があるがそれは仕事のことで、今のようなプライベートではない。


「あんなに砕けた話し方をする人だったのね」


個人的に話をしていない相手を、どうして好きになったのか。私自身も不思議でしょうがない。


「可愛い寝顔って言ったわよね? 幻聴まで聞こえるようになったのかな? ううん、絶対に言ったわ。もう、余計に悩ませてくれてどうするのよ! 五代真弥!」


いつも社長代わりに抱いている枕を殴る。


「もう、違う面を見せてくれちゃって、諦めきれないじゃないよう」


そして枕を抱きしめる。

ずる休みをしたくせに、ベッドで枕を相手に悶えた。アイロンをかけた社長のジャケットが目に入る。


「あ~、カッコいい……」


明日の憂鬱はどこかに飛んでいき、社長に会いたい気持ちに変わる。


「だからさ、やっちゃったんだって!」


まともに会話もしなかったくせに、一番ハードルが高いことをやってしまったという、意識はあるのだろうか。早く解決したいけど、怖くて聞けないのも事実。それでも増々好きになって、好きが止まらない。恋する女は、どこかおかしいものなのだ。




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