3
「さて、朝一の会議だわ」
今はタブレットとパソコンで会議をするため、資料をコピーしたりすることは滅多にないが、取締役会議は定年間近の役員が多く、やたらと紙媒体で資料を欲しがる。
朝一番の会議は、その取締役会議だ。資料は昨日揃えてある。私は資料を持って、会議室に向かい、それぞれが座る位置に資料を配る。
「あれ? 水越君か?」
「おはようございます」
西城取締役だった。いつもこの方は一番に入ってくる。にこやかに挨拶してくる愛想のいい方だ。毎日ケーキを食べては、太ることを気にしていると、担当が言っていた。
「誰かと思ったよ、髪を下ろしているから」
「あ、これは……たまにはいいかと」
「うん、うん、いいね」
年配の男であっても褒められるのは嬉しい。言っておくが、男なら誰でも良いというわけではない。
「セクハラになっちゃいますよ、西城さん」
そう言いながら入って来たのは、真田取締役だ。重役会議は人数が限られているから楽でいい。
「おはようございます」
「本当だ、水越くん、いいね」
「いえ、あの……」
「褒めるのはいいことだけど、最近は直ぐにセクハラと言われてしまうからね。何を言っていいか、困るよ」
「本当ですな」
「私はそんな風にはとりませんよ、素直に褒め言葉として、受け取らせていただきます」
朝の、のんびりした雰囲気で、和やかに会話は進む。
秘書はこうあるべきと、自分で秘書像を作ってここまで来た。身にまとうスーツやアクセサリーにも気を使い、色々な髪型を試したが結局、夜会巻きに落ち着いた。
会話の中心となってしまった私に、後ろから「おはよう」と声がして、社長が入ってきた。
一斉に居住まいを但し、私は頭を下げる。
「始めます」
社長の一言で、会議は始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます