3.旦那様の帰り道

 今日は結婚記念日。

 今年で8年目になるのかな。


 スーツもヨレヨレになるくらい働いている。

 ローンもないし、

 住む場所だって、比較的いい。

 夫婦の仲だっていいはずだ。

 会社から帰ってくると、

 洒落た小物を扱う店は軒並み閉まっている。


「夜11時過ぎじゃぁな」

 コンビニくらいしか開いていない。

 サービスは充実してきたといっても

 コンビニで購入した品で、

 喜ぶ女性はあまりいないだろう。


 フランス料理店でも予約できればベストなのだが、

 あいにく明日だって仕事なんだ。

「妻には悪いが、これで我慢してもらおう」

「345円になります。あの、ご家族にですか?」

 レジの女性店員はそう話しかけてきた。

「ああ。結婚記念日なんだ」

 店員さんはニッコリと笑う。

「やっぱり。お客様、

 この時間によくいらっしゃるから。

 他のお客様には内緒ですよ」


 ちょっとかがんで何か取り出したようだ。

「この辺でよろしいですか?」

 Thanksと書かれたガーリーなシールを

 商品に合わせて見上げてくる。

「助かるよ。その位置で頼むよ」


 シールを張り付けてにっこりと店員さんは微笑んだ。

「ありがとうございました」

 このコンビニはことあるごとに利用しようと心に決めたのだ。

「ただいま」


 

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