4.旦那様のご帰宅

 ちょうど日付が変わった。

 いつもよりは帰りは早いが、真夜中だ。


 妻だって仕事がある。

 もう起きてはいないだろうなと思いながらリビングルームへいく。


「おかえりなさい」


 妻は寝ぼけ眼で、やっと言い終えた。

 もう寝言に近い。

 机の上にはノンアルコールビール、

 花柄の便せんとプレゼントが置いてあった。

「さすが俺の連れ合いだな」

 起こさないようにささやくようにつぶやく。


 俺が買ってきたのは

 ミルクチョコレート12個入りとカフェオレ。


 店員さんはいつも明日の朝用のブラックコーヒーを買っているから、

 家族へのものと思ったのだろう。


 妻が残した便せんには

『私からの結婚記念日のプレゼント

 寝る前にのむものではないから明日の朝飲んでね。


 おやすみなさい。

 これから先もどうかよろしくお願い致しますね。

 今回の記念日には消えてしまうプレゼントだけど

 ねぇ、覚えている?

 お互いの好きなもの。

 記念日以上に大切な記憶は消えないわよね。

 誕生日だって

 いつまでも忘れないでよ。

 これから先もずっとよ』



 俺の脳裏には昔の記憶がよみがえる。

 あれは告白する前のデートの時だったろうか。


『私の好きなものはミルクチョコとカフェオレ!!

 ぜったいお昼には欠かせないわ』


『甘すぎるだろ。俺は断然ブラックコーヒーだね』



 恋人時代にはお互い譲れなくて口論になったものだ。

「忘れないよ。お前も忘れるなよ。

 次は誕生日だな。その次は出会った日かぁ」

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