ユキムラとノブシゲ
@ottocaius
第1話 旅の始まり
「ユキムラ、もう少し、ゆっくり飛んでくれよ~、もうダメ~いたしちゃうよ~~」
古き時に流行ったツーリングよろしく飛竜に二人連れの後で、飛竜に掴まってる後の少年が、飛竜を操縦している前の少年に、青い顔で泣き言を言う
「ノブシゲ、ここからは長く飛ぶから、食事はほどほどにしろと僕は注意したじゃないか!」
飛竜を操るユキムラは後ろで、青い顔をしてるノブシゲを𠮟った。
「でもさ・・あそこの村人は、俺たちを歓迎してくれたのだ。貴族の子弟として民の期待に応えないと・・・」
「ああそうだよな。・・・じゃあ、砂漠に突き落としてやろうかな・・・あの砂の山ならいいクッションになるからケガはしないだろうね」
ユキムラの叱咤にノブシゲは慌てて首を振る
「冗談いうなよ・・・あの砂漠には、人食い蜘蛛のサンドージュが住み着いていると村人が言ってたぞ・・それだけはやめてくれ!」
「じゃあ、次の町に着くまで我慢するんだな」
「わかったよ・・・・」
ノブシゲの答えをニヤリと笑って受け止めたユキムラは、飛竜に速度をあげるよう命じた。
「サイウン、次のダーウィンの町まで最大速度で飛ぶぞ!」
「まってくれよ~心の準備ができてぇ~うわぁぁぁあ」
ユキムラの操るサイウンは、この星の墜ちた大陸の北の玄関口のダーウィンに着いた。ユキムラは後ろのノブシゲに声をかける。
「ノブシゲ、ついたぜ!て、返事がないな・・・おい、よしてくれよ」
後ろで失神したノブシゲが我慢ができず、大小をいたしてるところを見て、苦笑したユキムラは、やってきた兵隊に彼の介抱を頼んだ。
「ようこそ、ダーウィンへ、悪いが旅券を出してもらおうか!」
「はい」
「アルビオン辺境伯爵三男、ハセガワ・ユキムラ及びその友人、ホシイ・ノブシゲ様、留学のために首都ゲオポリスに向かうのでございますか?よろしゅうございます。ようこそ、我がオエンベリ伯爵領へ」
旅券を調べていた兵隊は、相手の二人が貴族と分かった途端、態度が変わった
「ユキムラ様、宿の用意をいたしてもよろしいでしょうか?」
「二、三日泊って、都に向かうつもりだ、いい宿じゃなくてもいいよ」
「ですが、お連れ様は随分とお疲れのご様子ですが・・・・」
「じゃあ、任せるよ」
「かしこまりました。早速に係りの者に手配させます。」
へへと愛想がよくなった兵士は、物欲しそうな目つきになった。こういう時にどうしたらいいか両親に教えられた幸村は、物陰に連れて行って、銀貨の袋を握らせた。
「へへ、毎度ありがとうございます。よろしければ追加サービスもいかがですか?」
「そこまではいいよ・・・」
傍らで伸びているノブシゲが元気ならこの甘い言葉に乗せられて、二重払いさせられるのだろうなと思ったユキムラはそれ以上の話は断った。
宿に案内された二人、ノブシゲの介抱をフロントに任せたユキムラはちょうどいい機会だからとオエンベリの街の散策をして、一軒の研ぎ屋に入った。
「随分といい刀だ。ガンダリウム合金かな?」
「わかるのかな?」
ユキムラが持つ打刀を見て感心した研ぎ師の呟きに、ユキムラが答えた。
「ああ、いいものを見せてもらったよ。これだけの名物を持ってるとはアンタ、貴族だね?・・・そんな顔をするなよ。アンタ、相当できるのだろ?」
「わかるのかな?」
我ながら間抜けの答えだと、苦笑したユキムラは研ぎ師に答えた。
「この商売を長くやってれば、研ぎを頼んだ連中の腕は顔をみただけで、わかるよ。でも、アンタ、知ってるかもだけど、戦で必要とされるのは、指物の良し悪しより当人の腕だぜ!」
「なるほどな・・あそこにあるモノの良し悪しも乗り手の腕次第か?」
刀は腕次第だぜと言われたユキムラは、市場の向こうにある機械の巨人を指さして尋ねた。
「アンタ、アルビオンから来たようだけど、アルビオンには機動人はないのかい?」
アルビオン訛りに気づいた研ぎ師に、ユキムラは答えた。
「ないね。メッドはあるけどさ」
「そうか・・・リバイアサンに対するのは難しいだろうな?」
「うん、ズゴックとかカプールはなんとかなるけど、グラブロどもはどうしようもないよ。シェルターに入ってやり過ごすしかないんだ・・」
5年前にリバイアサンの新種であるシャンブロが上陸してトリントンの街を破壊しつくしたことがトラウマになってるユキムラは答えた。
「そうか・・・で、アンタが機動人を回してくれるよう、都に陳情するんだよな?」
「え・・・・・」
自分がアルビオン辺境拍の子息だと知ってるのかと感じて、次に言ってくることに警戒していたユキムラに、研ぎ師は冗談だよと言わんばかりに答えた。
「・・ほら、剣の研ぎは終わったよ。お代は市場価格でいいよ
「どうも・・ありがとう」
「毎度あり。まあ、道中も都についてからも金は大切にすることだな」
「どういうことかな?」
「アンタが欲しがってる機動人を、陳情すれば呉れるほど、都の連中は甘くないぜ」
「ということは・・・」
さっき、兵隊から袖の下を要求されてきたことを思い出したユキムラは、嫌な顔をして尋ねた。
「アンタもオエンベリに入ってきた時に嫌な思いをしたようだね。そういうことさ、ここの兵隊と来たら、街の顔役とグルになって何かと商人に言いがかりをつけて、挨拶料と称して金を巻き上げるんだからな・・あそこにある機械人も、ここの領主が都の連中に運動して回してもらったものらしい」
「でも、全く無駄という訳でもないだろう。この辺りは、ベヒーモスとかもでるでのだろ?」
そういうことかと嫌な顔をしたユキムラが話題を変えようと尋ねた。研ぎ師は答えた。
「確かに、この辺りもザメルが出てきて、街に火の玉を打ち込んで来やがる。しかしアルビオンほどではないだろうさ」
「そうか・・・」
「まあ、そういうことだ・・俺が生きてるうちはこの状況はかわらないだろうが、アンタは若い。都で修行するなら、学問や武芸だけではなく政治を変えることも考えてほしいな」
「今の言葉、よく覚えとくよ」
仕事が終わって宿に引き上げようとしたユキムラは、ちょうどいい機会だし、自分が乗るかもしれない機動人ザクを見ていこうかと思ったその時である。
「なんだと、ショバ代が払えないだと・・貴様、誰の許可を得てここで商売ができると思ってるんだよ!」
「今は女房が病気で物入りなんです・・親方にはもう一か月は待っていただけませんか?借金は必ず返しますので・・・」
「ああ、そうやって踏み倒そうとしても、その手は喰わないよ。俺たちも商売だからな・・・俺たちも手ぶらで帰っては親方に申し訳が立たん。今日はここに居座って娘を借金のカタにでもいただこうかね?」
「そ・・・そんな」
アルビオンでもないとはいえない、いつもの街の片隅の一風景だが、怒りにかられたユキムラは、言いがかりをつけてヤクザを張り倒した。
「このガキャ、なにしやがるのだ!」
「この人は金が払うと約束してるじゃないか・・待ってやればいいじゃないか?」
「ガキは関係ないことだ。ひっこんでやがれ・・・ほげぇぇ」
殴りかかってきたチンピラを足払い喰らわせて地面に伸ばしたユキムラは頭と思う奴らの方に向かって言った。
「ここの親父が金を払ってないと聞いたが、借金の嵩はどれぐらいなんだ」
「そうだな、銀貨百枚ってとこかな?」
ここで肩代わりしたら、都までの旅銀ギリギリになるなとギョッとしたユキムラだが頷いて答えた
「わかったよ。ほらよ。銀貨百枚だぞ。受け取りな」
ユキムラが投げつけた巾着袋の中身を確かめたヤクザの頭株はが中身を確かめた後、ユキムラに答えた。
「ちがいねぇ・・野郎ども、引き上げて親方に報告だ!」
「どこの武者様かご存じありませんが、ありがとうございますだ・・」
絡まていた商人一家を助けて、いい気持になったユキムラは、ザクに近づこうとしたが、一人の男に腕をつかまれた。
「何をするんだ!」
「何もしないさ・・・しかし、ボウヤ、武者を目指しといて、これは、武道不覚悟だぜ。戦場なら、命はないぜ!」
「あんた、誰だ」
「タカツキ・コウゾウ、ボウヤが憧れてるザクのライダーだ!」
ザクのライダーだと名乗った男に誘われてカフェに入ったユキムラは自己紹介した。
「・・・ああ、さっきの地回りともやり取りは見せてもらったよ。しかし、ああやって金を立て替えてやったらキリがないぜ」
「しかし、いきなり刀を出しての談判となっては碌な事にならないだろう?」
「まあそうだが、商人が借金が夜逃げしようとしてる可能性もあるかもしれないないな」
「僕が騙されたというのか?」
ユキムラは机をたたいてタカツキに抗議した。タカツキはそうじゃないと答えた。
「オレなら警邏に報告して、現場を抑えさせるな・・・」
「しかし、警邏もヤクザ者とグルになってるかもしれないんだぞ!」
「そうかもしれない・・・が、目の前でヤクザが言いがかりをつけてるのを、見て見ぬふりをしたら警邏の死活問題だぜ・・・」
「そういうものか?」
「そういうものさ・・俺は戦場を往来して、何度もそんな光景を見てきたからな・・・」
「なるほどな」
「納得してくれたか?」
少年時代から傭兵として生きてきたタカツキは戦場でのことをユキムラに話した。一通り聞いて納得したユキムラは尋ねた。
「アンタは機動人乗りになって長いようだね。『白い巨人』のことについてなんか聞いたことはあるかい?」
「・・・ああ、あの『ニュータイプという選ばれし者が操る、白い鎧兜に身を包み、その光の銃と刀で悪竜どもを薙ぎ払った』機動人のことか?俺はそういうお話は信じないね」
「そうかい・・『白い巨人』があったら、今暴れまわってる古竜を軽く一掃できるだろうに」
「しかし、そんなものを得たら、その力を悪用しようとする者が出てくるかもしれないぜ。『宇宙をかける昔の文明』が滅んだのはそのせいかもしれないんだぜ。少なくとも神になれる者が出ない限り、あること自体が災厄になるかもしれない」
「そんなのものかな?」
「機動人の配備と整備は時間は大変だぜ・・まあ、その手間暇がかかるおかげで、俺たちは食っていけてるのだろうけどな」
「なんだか民の膏血を食い物にしてるみたいだね・・・」
「しかし、暴竜が暴れまわった時、命を張るのが俺たちの仕事だ。何事もタダで済む仕事はない。そういうことさ。アンタも年を取ればわかるよ」
「そうか・・・」
経験しないとわからないのかな?と思ったユキムラは、タカツキに奢ってもらった礼を言って宿舎に戻った。すっかり元気を取り戻したノブシゲに今日の出来事を話した。
「人助けはいいいとして、路銀はどうするんだよ?」
「貴様に財布をもたらしたら、他の遊びに使ってしまうから、あれで良かったんだよ。仕方ない、ここの領主に挨拶ついでに、金はオヤジたちに立て替えてもらうよう、頼んでみよう」
「伯父上、払ってくれるかな?」
ノブシゲからしてみたら怖いオジサン、ユキムラにとっては父親である、アルビオン辺境伯に怒られないか、心配したノブシゲにユキムラは答えた。
「都についたら『今回はいいけど、出世払いだぞ』ぐらいなお叱りの手紙は来るだろうな・・・まあいいや、都に向かうまでの時間はあるから、オエンベリ伯爵に挨拶するぞ」
「いいのか・・ここの伯爵様はあまり評判がよくないらしいぜ」
「町でそのことは聞いた。それを承知で、あいさつするんだ」
「ち・・わかったよ」
翌朝、二人は、挨拶と金の立替を兼ねて伯爵の館を尋ねた。
「伯爵はお会いになるそうです。少々お待ちを」
武器を取次に預けたユキムラとノブシゲは、オエンベリ伯爵と対面した。
「本日は、父の代理を兼ねて挨拶にあがりました。お見知りおきのほどを、女伯爵・・・」
「ようこそ、オエンベリへ、あなたのお父上には色々と世話になったわよ。旅銀の立替ならいくらでもしてあげるわよ」
自分たちが育った質実剛健をモットーにしたハセガワ家とは違う贅沢なオエンベリ伯爵館の内装と貴族より、高利貸しの業突くババァが相応しいオエンベリ女伯爵を
「交通の要所を任されていることをいいことに、他の領主に高利で金を貸して、食い物にする暴竜より性質の悪いババァなら、あの噂・・『アンタみたいな美形は食われるかもしれないよ』というのは本当かもしれない」
と口はともかく、内心の不快感を感じながら挨拶するユキムラであった。
(続く)
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