3話 運命のポーカー
ケンヴィードがラルフに連れられてきた場所は煙草の煙が漂う小さな部屋
それほど広くない部屋に円卓が置いてあってそこにいるのは8人の魔血貴族たち。
ケンヴィードでさえどこの誰かが見ただけで判断できるほどの超有名上級魔血貴族の子息ばかり。
まるでサラブレッドの見本市みたいだった。
「ラルフ。これがかの有名な烈火の剣聖か?」
「本当に連れてくるとは大したもんだ」
「俺、サインもらっとこうかなー」
そんな高血統のサラブレッドたちはケンヴィードを見た瞬間、彼の前に一斉に集まった
「まあまあそう焦りなさんな」
ラルフはそんな彼らをなだめるように席に座るように合図する
「ケンヴィード、君はこの集まりがなんだかわかる?」
その一言にケンヴィードは言葉を選ぶように沈黙を挟んだあと慎重に答えた
「さあ…俺には上級魔血の仲良しクラブにしか見えんぞ」
「君らしい返答だね」
その返しにラルフはけたけたと笑い声をあげた。
「まあいい。その席に座って」
その一言にケンヴィードはゆっくりと円卓の席に座る
座った瞬間ディーラー役の使用人がケンヴィードの前に5枚カードを配った
「俺、そんな賭け事は好きではないんだがな」
そう言いながらケンヴィードは自分に配られたカードを見た。
あまりいい役ではなさそうだった。
「ケンヴィード、君も軍を辞めたんだし新しいビジネスに足を踏み入れてもいい頃じゃない?」
「新しいビジネス?」
ケンヴィードはそう聞きながらカードを切った
「簡単な商売さ。僕たちが扱う品物は特定の職種には欠かせない品物でさ。まあ若干の汚れ仕事にはなるけど僕たちは手を汚さず品物だけ西から東にながすだけ。そんな悪い条件じゃないと思うけどな」
ラルフのその言葉を聞いてその真意を悟って少し苛つきを覚えた
『品物』という単語を『奴隷の女』に入れ替えればその仕事とやらがどれだけ下衆い話か目に見えた
ケンヴィードは苛つきを吐き出すように腐れ役のカードを投げ捨てる
そして煙草を口にくわえるとじろっとラルフを見た
「その『品物』って具体的になんなんだ?」
その一言にラルフは余裕の笑みを浮かべ返した
「それは君の答え次第だね…僕たちに協力できるなら教えてやってもいいよ」
その言葉にケンヴィードは不機嫌そうに息を吐くと右手から小さな炎を出して煙草に火を付けた。
「君を疑うわけじゃないけど戦役が和平で終わってから僕たちの商売もだいぶ厳しくなってねえ…軍出身のケンヴィードを仲間に入れるのは利点でもあるが重大な欠点にもなりかねないんだ」
まあ、彼らの言い分はわかる。
なにせ全ての裏を知った上で彼らの前にいるのだ。警戒しないほうが変な話だ
だが、これ以上回りくどく奴らから話をきくことでもない。
――一つ博打を打つか。
そう思ったケンヴィードはディーラーにカードを要求した
「ラルフ。この話乗ってもいいぞ」
ケンヴィードのその言葉にラルフたちは「おお!」と色めき立った。
「さすがケンヴィード話がわかるじゃないか――」
「――ただし条件がある」
ケンヴィードはそう強く言い放つとラルフを見た
「ここで、俺がお前らよりも強いカード出せたらお前らの仲間になってやる」
「え?」
あまりにも唐突な言葉に一同困惑の表情を浮かべる
ラルフは乾いた笑みを浮かべながらケンヴィードに聞いた
「君、賭け事は好きじゃないって言ってなかった?」
「ああ、本当は好きじゃないぜ」
そう言うとケンヴィードはその手にカードを取った
「でも、この縛りがあれば俺もお前たちを裏切りにくいしお前らもこの縛りを準拠するだろう?」
「まあ、そうだけど」
そういうとラルフは自分の手持ちのカードをちらっと見た。
「でも、もし僕たちが勝ったらどうするの?このままじゃ君だけ勝ち逃げになるよ」
ラルフのその一言に彼らはニヤニヤと笑い出した
――つまり俺にも代償をもとめる…ってわけか
ケンヴィードはそう悟るとあるものを円卓の前に出した
愛用の魔剣『サラマンダーテイル』だった。
「――冗談でしょ」
そんな彼の行動にラルフたちはざわついた。
当たり前だ目の前にあるのは選帝侯ティアマート家の嫡子にしか受け継がれない神器なのだから。
「君自分がやってることわかってるの?」
「ああ、だって今賭けられそうなのこれしかないからな」
「君は馬鹿かな?『サラマンダーテイル』なんて国が一つ買えるくらいの神器って聞いた…」
「へえ、それは初耳だけどな」
そう言うとケンヴィードはニヤッと不敵に笑った
「つまりこの賭けで俺が勝てば俺はお前らの仲間になるついでにその『品物』の秘密を知る。そして俺が負ければこいつを好きにすればいい。これでいいな」
ケンヴィードのその一言に一同は思わず凍りついた。
彼らの目にはケンヴィードは気でも狂ったようにしか見えてないだろう
だがケンヴィード自身は威風堂々とし何一つ動じてもなかった
その様子が彼らにとっては不気味に見えていた
「君がそれでいいならいいけど…」
ラルフは困惑したような様子で自分の手札のカードを見せびらかせた
その役は『フルハウス』――なかなかいい役だ。
「すまないね、ケンヴィード。君は博打の打ち方が下手くそだよ…そんなめちゃくちゃしたら身を滅ぼす――」
その言葉を遮るようにケンヴィードは自分の手札を投げた
ふわっと円卓の真ん中に着地したそれの役は『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』
「え…」
あり得ない最強カードにラルフは思わず言葉を失う
一同その光景をざわめくしかできなかった。
「俺の勝ち…だな」
そう言うとケンヴィードは円卓の真ん中に置いた愛剣『サラマンダーテイル』を右手に引き寄せた
「君、本当はとんでもないギャンブラーかな?」
ラルフは顔をひきつらせながらケンヴィードを見た
その問にケンヴィードは口元に笑みを浮かべ言った
「博打はあまり好きではないのは真実さ。でも博打的なことは先の戦争で何度もやってきた。自分で言うのも何だが、ここぞとばかりの博打には強いのには自信がある」
緋剣のケンヴィード~烈火の剣聖は立ち止まらない ComiQoo @ComiQoo
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