2話 ネズミの尻尾

 魔法帝国はいつからという歴史は不明であるが非魔血を――最も被害を受けているのは肌が黒い夜美ノ民を奴隷として使役してきた歴史がある。

 それは下級魔血から最上位の選帝侯家まで例外なく異民族奴隷は当たり前のように使役している。

 それが魔法という力を持つ魔血にとって当たり前の支配者としての行動だった。

 だが昨今、化学産業革命が著しい夜美ノ国は魔法帝国と同等の力を持ち今回の和平合意に至った。

 いや今回はギリギリの戦いで魔法帝国は辛勝したようなものだから、実質その条件は飲まざるを得なかったのかもしれない

 夜美ノ民の奴隷貿易シンジケートの破壊摘発――それがケンヴィードに与えられた任務。

 情報はすぐにケンヴィードのもとに流れてきた。

 奴隷取引は思いの外かなり根深く、表層的には下級魔血の商人や非魔血のマフィアが取り扱っている体を見せて、深層的にはとんでもないところまで汚染されていた。

 奴隷取引の裏の裏。それは名家と呼ばれる最上位魔血貴族の現金収入の温床になっていた。

 だがその事実はこの任務にケンヴィードが立った意味は否が応でも意味が出てくる

 あまり気乗りはしないが、ここは選帝侯家の御曹司という肩書を全活用することにしよう。

 ケンヴィードはそれからは軍を除隊したことを公にし、あまり好きではない社交界の顔出しも頻繁に行うようになった。

 選帝侯家の御曹司と先の大戦の英雄という最強の肩書は奴らにはいい餌になった。

 ネズミの尻尾は案外早く姿を表した。

 ケンヴィードはとある名門貴族の夜会に参加した折、その男に出会った。

 ラルフ・ラングース。風の選帝侯家の親戚筋という超名門貴族の嫡子はケンヴィードとそう年の離れてない若い貴公子だった。

 ケンヴィードが彼に目をつけたのは一つの情報だった。

 若い女性の非魔血や夜美ノ民ばかりより好んで奴隷商から多く買い付けているグループがいる

 それがあろうことかケンヴィードと同年代と言うべき若い上級魔血貴族ばかりだという。

 彼らが何を求めて若い女の奴隷を買い占めているのか――

 本来なら直接問いただしたいところだが、今回は潜入任務。

 その気持をぐっと押さえてケンヴィードはその中でティアマート家と親交のあるラングース家の嫡男であるラルフに目をつけた。

 ラルフ・ラングースは幼い頃から知ってる昔馴染みだがケンヴィードは彼のことがあまり好きではなかった

 強い相手には媚びへつらい弱い相手にはとにかく強くあたる。

 幼いケンヴィードはそんな彼を軽蔑しなるべく無視していたような気がする。

 それ以上も以下の関係でもないから、ラルフに近づくのは難しいかなとケンヴィードは思っていた

 だが、帝国の英雄担ってしまった今、ケンヴィードはラルフにとって媚びへつらいたい強い相手になっていた。

 ラルフは自らケンヴィードに近づいてきた。

「いやあ、帝国の英雄がまさか僕の昔馴染みなんて誇らしいじゃないかー」

 ――そんな仲良くはなかったけどな。

 ケンヴィードはシャンパングラスに口をつけながらラルフの顔を冷めた目でみていた

「でもケンヴィード本当に軍をやめちゃったの?そんなの我が魔法帝国にとって損失でしかないじゃないかー」

 彼はケンヴィードに馴れ馴れしく絡むように言う

 ――お前らのために一時除隊しただけだよ

 ケンヴィードはそう思いながらもひた隠すように笑顔を浮かべた

「しかし、君も人が変わったよねぇ…社交界嫌いで有名だった君が最近は夜会や舞踏会をはしごするなんて――」

 ――まあ、この場にいるのは苦痛そのものなんだがな

 ラルフのその言葉にケンヴィードはただ彼に怪しまれないように微笑むしかできなかった

「そうだ、ケンヴィード」

 そういうとラルフはケンヴィードの耳元で囁いた。

「後で僕たちの仲間とポーカーでも興じない?」

 その一言にケンヴィードは彼に視線を合わせた

 きた――心の中でそう思った。

「君を仲間たちに紹介したいんだ。損な話じゃないよ」

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