2話 灼熱を内に秘めた男
魔法騎士団は帝国の武を統括する要――カートス・シヴァルナは最もその意味を肝に銘じ粛々とその役割を理解していた
そのために自分は皇帝家から使わされているのだと肝に銘じていた。
あの男を出会うまでは――
「シヴァルナ大佐」
ケンヴィードの乱入という形で終わった軍議がお開きになった後、カートスはひとりの将に呼び止められた
自分よりふた周りほど歳をとった歴戦の将であるが
「なんですか?」
カートスは涼しい顔をして一言聞いた
将は渋い顔を滲ませながら一言カートスに聞いた。
「あのサランド公爵家の少尉は本当に信頼できるのですか?私にはいいとこの坊ちゃんという雰囲気というよりか戦いに飢えた獣のように見えたのだが·····」
その質問にカートスは思わず口元を弛めて笑った。
「その私見、間違ってはいません。あなたの言うとおり彼は内に暴走しそうなほどの灼熱を抱いたような男です」
「しかし、それでよいのですか?シヴァルナ大佐?」
困惑する彼の質問にカートスは小さく笑い言った。
「ただ、彼の実力は折り紙付きですよ。それは私が保証しましょう」
そういうとカートスはゆっくり作戦室の出口へと向かった
「断言しますよ。ティアマート少尉は間違いなく英雄になります」
自分でも信じられないくらい彼を買っていた
本来ならばカートスとケンヴィードは上官と部下以上でも何物でもない。
そして
それ故にカートスはいつも誰よりも孤独感を抱いていた。
自分と並ぶほどの才能を持ち合わせた相手、ケンヴィード・ゼファー・ティアマートと出会うその瞬間まで。
魔法帝国の選帝侯家の嫡子として鳴り物入りで入隊した彼だが、自分がサランド公爵家の人間として振る舞われることを酷く嫌っていた。
噂には聞いていた。
サランド公爵家の嫡男はとんでもない問題児だと。
公爵家を継ぎたくないから一時家出をし東方で剣術修行に明け暮れていたというのは有名な話。
結局、魔法騎士団に入れることで息子が落ち着くのを期待してサランド公爵の肝いりで入隊させられたようなものだった。
だが当のケンヴィードは父の期待通り落ち着く気はさらさらなく、とにかく手の付けられない新兵そのものだった。
入隊して間もなく彼の相手を出来る将校は魔法騎士団の中に誰もいなくなった。
彼の魔剣術はこの時点で恐ろしいくらい完成していた。
圧倒的速さの抜刀術、繊細な魔力操作で扱う
蹲る上官たちを後目に彼は挑戦的な真紅の瞳で彼を見る
まるで自分を誘うかのように。
「おやめくださいよ。シヴァルナ大佐」
そんな二人の間に割るようには入った士官
「新兵に負けたりしたらどうするんですか?」
その一言にカートスは口元を緩ませ一歩前に出た
「ああ、だから少し本気を出す」
その瞬間場に殺気が走った。
赤い閃光が稲光のように走った次の瞬間、彼の灼熱の切っ先は寸でのところで止まった
その刃を止めたのはカートスが一瞬で張り巡らせた雷光の結界だった。
「君がサランド公爵家の問題児か?」
カートスのその質問に彼はニヤッと笑った。
「あんたこそこの緩みきった魔法騎士団のお偉いさんか?」
質問を質問で返すそんな彼にカートスも呆れたような笑みを浮かべた。
「それは失礼したね。たしかに君からしてみれば緩みきっているかもしれない」
次の瞬間、カートスはその場に雷撃を落とした。
だが彼も瞬時に距離を取りそれを回避した
「おもしれぇ」
そして灼熱に燃えたその二振りの刃を翻しさらなる勢いで向かってきた。
「ようやく俺を満足できる相手が出てきたってわけだ。いいぜ。受けて立つ!」
どちらが勝ったか?その勝敗は今でも自分の中でもあまり覚えていない。
ただ、どちらもとんでもない魔力のぶつかり合いだったらか結局のところ止めが入ったのかもしれない
ただ手合わせしてるうちに不思議なことに二人の間に絆ができたのは確かだった。
そしてそれを感じたのは相手であるケンヴィードも同じだった。
その日からカートスとケンヴィードは上官と部下を超えた関係になった。
この魔法騎士団の中で唯一お互いを認めあえる仲。だからカートスは信じていた
この戦争はケンヴィードが鍵になる――と
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