4話

浮かない顔して登校する美沙に駆け寄ってきた子がいた。

 同じクラスの鈴木ゆあなだ。

 ゆあなは元気に話しかける。

「おはよう」

 おはようと返した美沙は

 どこか無理した笑顔を浮かべた。


「大丈夫? なんかボーッとしてるよ」

「あ、やっぱりわかっちゃった?」

瞼が腫れぼったくみえたからほんのりアイシャドーを塗ってきたのだが、無駄な努力だったらしい。うちの校則は割と厳しめなので、本当にうっすらひくのが限界だったりもする。

「どうせ拓斗くん関係なんでしょ。話聞くって」

 ゆあなは高校で初めてできた親友だ。

 ゆあなはそう言ってくれたものの今はホームルーム10分前。

「遅れてくのはまずいから。落ち着いて聞けるのは放課後かな」

「うん」

 幸い拓斗とはクラスも選択教科もちがうから学校では顔を合わせることは少ない。

 美沙は今日の時間割を思い浮かべて青ざめた。

「あっ、今日英単語テストじゃん」

「そうだよ。しかも一限目。今回も満点狙うかな」

 美沙にとっては地獄の時間となりそうだったが、ゆあなにとっては楽な時間となりそうだった。

「はぁ最悪。3点くらいしかできなかった」

「落ち込むなって。私もそれくらいだから」

「あ、わたし7点くらいかな。最後の3問分からなかった」

 美沙が一番悲惨だけれど、ほか二人の友達だって完璧とまではいかない。

「どうせゆあなは満点なんでしょ?」


 テキストの出題ページの答え一覧をみてゆあなはにっこりとする。

「ん~テキスト見たけど。合ってるみたいだね」

 ゆあなはいつも学年トップ。


 本日のイベントである小テストを乗り切り、昼になり、自由になる放課後まで相談を耐えたのだった。

(お昼でもよかったけど、もっと時間かけて話したいというか……)

「あ、わたしら部活行くね」

「はいよ。じゃあうちらもどっかいこう」

「じゃあパソコンルームね」

 学校では部活動がさかんで、いつも放課後になると吹奏楽部、ロック部、美術部、ダンス部などが教室を使うため遅くまで教室に残ることはしないのがルールとなっていた。

 パソコンを使う部活がないことと

 美沙達が信頼できる生徒だということもあり先生にとがめられることはなかった。

 ガチャンとパソコンルームの鍵を閉め、ゆあなは先生の座る席に腰かけた。

「で?」

「……拓斗がもう電話しないって」

「うそ。あんなに仲良かったのに。理由は?」

「受験に備えるとかって。いままでありがとっていわれただけで。なんでだろ。なにかしたのかな、私」

 ゆあなはしばらく前髪を引っ張りながら唸っていたが、「そっか」と呟くとスマートフォンを取り出した。


「理由もわからなくて辛いだろうけど。

 もう少し冷静になって考えよう」

「うん」


「そう。突然そんなこと言われたら訳分からないよね。

 私の口からその場しのぎの言葉は言えないわ。

 本人からなにか説明があるかもしれないし。

 私も拓斗の友達に聞いてみるから」

「ありがとう」

「問題は家が近くってことだよね。

 朝とか時間ずらしたほうがいいんじゃない?」


 いままで拓斗がサッカー部の朝練の時は早く出て、時間を合わせていたし、無い時も一緒になることが多かった。結果的に一緒に登校するようになっていた。

「へいきだよ。今日だってずらしてきたし。慣れれば気にならないと思う」

「そっか」

 其の日はゆあなに相談することで前向きになれたのだった。


 

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