第9話 鉄納戸
確かにさあ。
確かにさあ。
自分は下っ端だよ。
初出動も失敗に終わって、得体が知れないとはいえ老夫婦に捕まって、現ナンバーワンヒーローにも会えたのに一撃も喰らわせられないどころか、攻撃すら発せられないひどい有様だったけどさあ。
あわよくば、仲良くなって、気を許したところで悪の手先らしく一撃を。
とか、考えないでもないでもないわけですよ。
いや自分暴れ回りたいんであって別にヒーローとかに泡を喰らわせたいとか思ってないですけど、組織がそーゆー方針だから従っているだけですけどまあ、ヒーローと闘ってみたいとは少しは思っていたわけですよ。ほんの少しは。
だからヒーローに懐柔されたわけではないですよ。
それをさあ。
それがさあ。
(人質に選ばれるってどうなんだよ)
情けない。
情けなさ過ぎる。
情けなさ過ぎて涙がちょちょぎれる。
「ひーひひ。怖いか恐ろしいか小僧」
別に怖くねえよ。
自分と同じだろう下っ端の悪の手先に反論したいが、口にガムテープを貼られているのでできないのが、すごく。とってもすごく口惜しいです。
「ひーひひ。早く来ねえかなあ。ナンバーワンヒーロー。あいつの前でおめえを殺して人質を助けられずに絶望に染まる顔を見たいぜ」
いえ寧ろ好都合だと喜ぶだけだと思いますよナンバーワンヒーローだって人間ですので。
あーあ。
けど。
ここでお終いかもなあ自分の人生。
両親の顔も忘れちまったしあっちも同じだろうしなあ。
悲しむやつも居ない。
のは別にどーでもいいんだけど。
まあ、どーでもいい、かあ。
暴れ回りたいのだって別に明確な理由があってしたかったわけじゃねえし。
ただ暴れ回りたかっただけだしな。
いいかあ。
「「お兄ちゃん!!」」
ん。
何だ。
足に何かがしがみついている。
小さくて、温かくて、硬い。
「ひーひひ。こいつの妹と弟かあ」
「「お兄ちゃん!逃げちゃだめでしょう!」」
おいおいおい。
誰と勘違いしてんだよ。
自分に妹弟なんて。
いや、居るかもしんねえけど自分は知らねえけど。
つーか、逃げたっていいだろうが別に。
あいつらから。
そう、あの老夫婦から逃げたって。
(………あいつらがあっさり逃がすかな?)
嫌な予感が増幅する悪の手先は、足にしがみついている小さい子どもたちを決して見ないようにした視界に入れないようにした。
だって気のせいだから絶対気のせいだから。
(2022.11.23)
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