第10話 砥粉




 あっしは下っ端の悪の手先だが、下っ端でも下の下っ端ではなく中の下っ端くらいだと思う。

 相手の視覚を封じる能力有。

 相手を簀巻きにするのが得意。

 そして、簀巻きにして放置するのが好き。

 出動した三回すべてヒーローを簀巻きにして放置する事に成功してきたあっしは今。四回目となる出動で激しく動揺している。


 いつもは出動日時だけ伝えられて後は好きにしろと言われて来たけれど。

 今回はそれに加えて、人質の指定とナンバーワンヒーローが来たら即座にその人質を殺害しろとの指令があった。


 いやいやいやいやいや。

 あっしには無理です。

 思った。

 けれど、言わなかった。

 拒否したらどうなるか知っていたから。


(すまねえな小僧)


 虚勢を張る為に、また己を鼓舞する為に発するのは気色悪い笑い声。


(やるぞあっしはやるぞ)


 恐らく。否。確実にナンバーワンヒーローが来る。

 ナンバーワンヒーローが来たら、あっしは消される。

 そうだ。

 どっちにしろあっしは消される。

 けれど少しだけでも生き延びたくて口を噤んだ。


(最後にあっしは)


「あっしは」

「じゃあな」


 突如として空を飛んでいるような浮遊感に襲われたかと思えば、飛んでいるのではなく落ちていると認識した悪の手先。底知れぬ穴の中に落下する中で、鼓膜の中で響き続けたナンバーワンヒーローの声が今更ながらに届いて、うっそりと微笑んだのであった。


「なんて呆気ない」











(2022.11.24)


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る