第7話 錆




「こちら悪の手先で、こっちは私たちの子でナンバーワンヒーローよ」

「初めまして」

「………」


 あの老夫婦を人質に取った時から、自分の人生は転げ落ちる一方だ。

 現ナンバーワンヒーローに睨まれている悪の手先は己の不幸を呪った。


 何がどうなってこうなったのか。

 長い付き合いになりそうだと勝手に認定されたかと思えば、老夫婦に紹介したい人が居ると言われて。

 どうせ破壊衝動を抑えさせる為の医師か保護観察官かそこら辺のやつらだろうと思っていたら。


 現ナンバーワンヒーローだった。


 派手にぶっ倒されて悪の手先を止めさせようとしているのだろうか。

 老夫婦の子どもって現ナンバーワンヒーローだったんだあびっくりい!

 とはならなかった。

 この老夫婦の子どもなのだ。

 ナンバーワンヒーロー。

 うん。納得。


 しかしこんなに早くナンバーワンヒーローにお目通りできるとはな。

 まあいずれは。いつかは。いつの日にかは。闘うはずだったんだ。

 派手にやりやおうや。

 歯茎を剝き出しにして構えたのだが、流石は現ナンバーワンヒーローといったところか。すぐに闘う意志を示そうとはしなかった。どころか。小さく頭を下げたのだ。


「両親が世話になっています。悪の手先という事で敵対関係にありますが、両親たちが私に紹介する程の親交があるのです。信用しますよ」


 嘘をつけ。

 歯茎を剥き出しにして威嚇しているくせに。

 おら、我慢しないでやり合おうや。


「そうなのよ。悪の手先だけど、補修者としての訓練でとってもお世話になっているの。だから時々あんたも交えて一緒にご飯とか食べられたらなーと思って。今日は紹介だけだけどね。すぐに訓練に戻らないとだし。あんたも忙しいでしょ」

「母さんも父さんも師匠にしごかれているみたいだね」

「まあね。でも母さんも父さんもへこたれないよ。協力者も居る事だしね」


 あーあーあーあー。ほのぼの親子会話ですか。

 無視すんなやこら。

 自分の意思を無視すんなやこら。

 協力するなんて一言も言ってねえぞ。


「両親をよろしくお願いしますね」


 誰が返事をするかっての。

 言葉を発しないのがせめてもの虚勢だこら。


 しかし流石は現ナンバーワンヒーローだな。

 しかし流石は得体の知れない老夫婦の子どもだな。


 ちょ。こええ。











(2022.11.22)


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