第8話 夕食


 違った。有希は単純に感動してくれているらしい。

可愛らしく、それでも興奮を抑えようとしているのか握り拳をプルプルさせながら俺を見ている。


「曲作りならこれからいくらでもみれるから、先に行きますよ。有希」


 漏れそうな笑みをなんとか理性で抑える。言葉使いが嫌に丁寧になってしまうのは有希が可愛すぎて、俺までプルプル震えそうだからだよ。

 部屋の中央は30畳ほどのリビング。テレビとオーディオセット、ソファとローテーブルが置いてある。

 部屋の端の方にアイランドキッチンと大型冷蔵庫があって、オーブンや食洗機はキッチンに作りつけ。

 ドイツ製で大変使いやすい。

 有希も料理が趣味なので大きなオーブンに喜んでいる。


「コウちゃんのお料理も食べたいけど私のも食べて欲しいの、美味しいものいっぱい作ろうね」


「ああ、楽しみがまた増えたな」


冷蔵庫を開けながら満面の笑みを浮かべる有希。嬉しそうで何より。

ここで二人で料理するようになるのもすぐだろう。


「今日は俺が仕込んであるから、有希は明日の朝から作ってくれる?」


せっかく一日目の夜だから少し頑張ってみた。出かける前に仕込んでおいたビーフシチューだから美味しくなっているはず。


「うわ、楽しみっ! 明日の朝ね、私はその日の気分なんだけどコウちゃんは和食洋食どちら?」


「俺も気分だね、パンはここ、米はここ。有希の好きなものでいいよ」


簡単に食材の場所を教えて、先に進む。


 リビングの奥に洋室が二つ。

 小さい6畳の方を有希の衣装部屋にして、大きい12畳を二人の寝室にする予定だ。今はセミダブルが1台しかないので結婚するまでは有希はここで、俺は器材室のベッドで寝るつもり。でないと理性に自信がない。


両方の部屋共にウォークインクローゼットが付いているので収納は大丈夫だろう。

このマンションは収納がたっぷりあるところも、気に入っているポイントだったりする。


「あとはベランダ。広めだからここでお茶くらいはできるよ。バーベキューは無理だけどね」

「うわぁ、夕陽が綺麗ね」


眼下に広がるオレンジに染まる街。

これからは二人で見ることができると思うと感慨深い。


「さて、そろそろいい時間だから夕飯の用意をするよ」


 ローテーブルに明るいレモン色のクロスを敷いて、皿を並べる。

ラグには座りやすいようにクッションをいくつか。

これは、食事用にダイニングテーブルを用意するかな。

 この高さは食事には不向きだ。

 二人で家具屋に行くのもいいな、すごく良い。

 よし、次の休みにはそうしよう。


 俺の作ったビーフシチュー、美味しいと評判のベーカリーで買っておいたバタール、温野菜多めのサラダ、トマトのファルシィとデザートはココナツアイスとビスキュイ。飲み物はレモンソーダ。


「すごい、綺麗。美味しそう。コウちゃんありがとう嬉しいです!」

「喜んでもらえて俺も嬉しいよ。さ、温かいうちに食べよう」


二人で席につく。向かいに有希がいると思っただけで幸せだ。


「今日からよろしくね、有希」

「はい、こちらこそです。コウちゃん」


 グラスをひょいっと持ち上げて乾杯。

ワイングラスを重ねると割れちゃうからね。

有希の食べ方はとても綺麗で、それだけで彼女が大事に育てられたことがよくわかる。こんないいお嬢さんと結婚できるんだから、俺は本当に幸せものだな。


「美味しい、ふふ、食べすぎないようにしなきゃ」


時々目があって、お互いにニコッと微笑む。

 幸せな、空間。

有希も幸せを感じてくれていると嬉しいな。

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