第6話 再会

 秋晴れ眩しい土曜日の午後。俺は閑静な住宅街を歩いていた。


 香川さんとの約束の時間は午後2時。今は1時30分。

少し早めに着いたので、周辺を散策している。

 目的地はすでに確認済みなので、特に焦ることもなく、近くに公園を見つけては有希はここに来たことがあるだろうかとか、ここはあの写真に写っていたところだなと思いを馳せていた。


「45分、そろそろ向かうか」


 スマホで時間を確かめ、ここから5分ほどの香川さん宅へ向かう。


 やっと、有希に会える。


 白い瀟洒な豪邸。この住宅街も俗にいう高級住宅街と言われるところだ。

近所には有名な会社の会長宅や芸能人の家などが普通にある。

 この家で有希が育ったと思うと感慨深い。

ふっと息を吐き、襟元を正してからインターフォンを鳴らす。


 ピンポーン。軽やかなチャイム。


 すぐに扉が開き、茶色いふわふわのセミロングが目に入る。


「ユキ?」


 ああ、有希だ。

 可愛い。髪の毛柔らかそう、目はくりくりと大きなアーモンド型。

しっとりとシミひとつない肌、触れたら離したくなくなるから自重、自重。

 ここまでを一瞬で考えて、目を丸くしてこちらを見ている有希に声を掛ける。


「ユーキ?お家いれてくれませんか?」


無言のままコクコクと頷いて招いてくれる有希の後ろを行く。


 20畳はありそうなリビングに、香川さん一家は勢揃いしていた。

大理石のテーブルに趣味のいい茶色のソファ。3人がけに案内されてそこに座る。

 同じソファの端にちょこんと座る有希が可愛い。

 思わずじっくりと見つめてしまっていた。

と、その前に挨拶だな。

「おじさんおばさん、お久しぶりです。神戸幸二です」

「コウちゃん、お久しぶり。大きくなったわねぇ」

「幸二くん、約束を守ってくれてありがとう。今日からはパパって呼んでもいいぞ」

 たまにメールやテレビ電話で話をしている上、写真も見ているのであまり会っていなかった自覚がなかったのだが、よく考えたら十数年ぶりに会うんだよな。


「ちょ、ちょっと待って、姉ちゃんの婚約者ってこの人なの?!」


 右横の一人がけに座っていた弟の智くんが立ち上がって俺を指さす。

キャスケットと眼鏡を外す。そういえば俺、プチ変装していたのを忘れていた。


「みなとさま?!」


 妹の真由さんかな、俺のことを知っているらしくとても驚いている。

ちょっと驚きすぎでむず痒いなと思って、俺は自分の頬を軽く掻いた。


「はい、歌手やってます。相模みなとって言う名前で」


 ちゃんと自己紹介。

 有希も俺のことを知ってるらしいから、笑顔を添えて。  

初めて会った時と変わらない、くりくりとした目が俺を見てる。

ああ、有希がここにいると思うだけでさらに笑顔になってしまう。

いつも俺に笑顔になれというカメラマンさん、今きっと一番いい笑顔が撮れます。


「父さん、婚約者は父さんの子ってことよね。どうでしょうみなとさま!姉より私の方がスタイルいいですよ!若いし!」


おや、とんでもないことを言われてしまった。

だが、譲れることと譲れないことがある。


「あー、申し訳ないのですが。子供の頃から有希さんだけ見てたんです。有希さんと結婚するために頑張ってたので他の方は、ごめんなさい」

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