第4話 友人


 結局俺が入ったのは偏差値が高いのと自由な校風が魅力的な高校だった。


 メジャーデビューして2年でなんとか売れたって実感があったが、まだ学生の身。顔を出すのはジャケット写真なんかでチラチラと出し惜しみ。


 芸名も、本名は隠して神奈川生まれだからって相模みなとなんて名前になった。湾でもよかったんだけどな。

 ふざけすぎだとマネージャーの向坂さんに怒られた。


 「幸二、これってお前じゃね?」

周囲に誰もいないことを確認してから中学からの友人である長尾春人に声をかけられる。長尾は慎重なやつで口も硬いから、俺が音楽活動をしていることを教えてある。


「ああ、それ俺」


 見せられたのは音楽雑誌の見開き記事だった。

 長い天パーの前髪で微妙に顔を隠した俺の大きな写真。

知ってる人間なら誰でもわかってしまうだろうけど、残念ながら俺の素顔をちゃんと知る人間はそう多くない。

 学校ではストパー+眼鏡でプチ変装しているからな。

 動画サイト出身でメジャーデビューからのスマッシュヒット。

 新進気鋭のニューカマーなんて不思議な、持ち上げてるのか下げているのかよくわからない記事だったけど、こうして取り上げてくれるだけでありがたいと思おう。


「何この芸名、もしかして相模湾からとった?」

大きく書かれている芸名を指さされる。長尾は呆れたような顔をしながら俺に言う。そういえばメジャーデビューは教えたが芸名はまだ教えていなかったか。


「お、わかるかやっぱり。マネージャーさんはわかってくれなかったんだよ」

「芸名で遊ぶなよな。お前だったら絶対に売れるからそのうち恥ずかしくなるぞ」

「大丈夫。恥ずかしくないギリギリ狙ったから」


「で、有希ちゃんのためなわけ? 音楽活動」

 写真は見せてないけれど名前だけは教えてある俺の最愛。


 長尾に知っていてほしかったのは、ただの勘なんだけど、こいつとはなんとなく長い付き合いになる気がするんだよな。


「もちろん、宝くじを買うつもりはないけど自分で一発大きく当てる分なら運じゃなくて実力だろ? 俺の力で有希を幸せにして、一緒に俺も幸せになる」


「はいはい。本当に重いよなお前の愛。相手とのバランス悪くないか心配だよ」


「わかってる。だから結婚するまでに俺にメロメロにさせる予定」


 それから、テレビやラジオからのオファーが増えて、アルバムが2枚リリースされた頃、高校を卒業して大学に行った。


 大学はそこそこ名の知れた私立で、専攻は法学部にしておいた。


 弁護士になれるとは思わないが、もし芸能界を辞めることになっても潰しが効くように何か資格を取っておこうと思ったのだ。有希に生活の苦労をさせることは俺の本意ではない。


 友人の長尾や高校からの友人も何人か同じ大学に通っており、俺の仕事を知っている奴も増えているがみんな口が固いので特にバレることもない。

 どうやら長尾がそこら辺うまくやってくれているらしいと知ったのはだいぶ後になってからだった。


 有希と暮らすためのマンションを用意しようと思ったのは、大学を卒業する半年ほど前のこと。

 本当は全額自分で用意しようとしたのに、子供のための住宅資金の援助は税金が安くなるとかで親が協力してくれた。

 おかげでこの年にしてはいいものが買えたのではないかと思う。


 場所もここならどの交通機関も使いやすいし、生活するにもいいところを選べたと思う。

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