第3話 転機
たまにもたらされる親からの情報と、叔父さんからの数々の写真。
そんなわずかな縁にみっともなく縋る俺にとって、幸せな情報が来た。
俺と言う婚約者がいるということを有希はしっかりと認識し、納得してくれているらしい。
叔父さんが有希に幼馴染のコウちゃんが婚約者なんだよと言ったら、それはそれは可愛らしく笑って
「有希、コウちゃんのお嫁さんになれるの嬉しい」
と言ってくれたそうだ。
その話だけで多幸感でいっぱいになる俺は、なんて単純な男なんだろう。
俺は有希が一番幸せになれるような未来を考え、将来どこでも選べるように県下一の高校を狙って勉強を頑張っていた。
そんな時だった、俺の将来に対する考えを変える出来事があったのは。
受験のストレス発散と、滾りまくっていた有希への想いを昇華するために中3から始めた動画サイトへの投稿でオリジナル曲をいくつか出していたら、レコード会社の人の目に止まったらしい。
一曲二曲と出すうちに視聴者数が増えてきたなと思ったら、十曲目あたりで数十万ほどになって、いくつかの会社からお誘いがあった。
その中でも一際熱心に俺の曲が好きだと言ってくれた人と会うことにしたら、いつの間にかメジャーデビューをすることになっていた。
会社自体は業界では中堅どころだが、俺のスカウトに来てくれた向坂正樹さんという人がそのままマネージャーとしてついてくれることとなった。
最初に会った時、まだ中3と言ったらかなり驚かれたが。
向坂さんには有希のことも話しておいた。
婚約者がいて、彼女が結婚できる時期になったら何があっても絶対に結婚すること。反対されたら即座にこの仕事を辞めること。
自分が有希のためだけに、曲を作っているということ。
初めは冗談を言われていると思ったのか、話半分に聞いていたらしい向坂さんは、俺の本気を知ったのか、そのうち真顔になっていた。
話が終わった後に言われたのは、
「お願いですから、事件沙汰だけは勘弁して下さいね」
だった。解せぬ。なぜそうなる。
忙しい。
レコード会社の人との打ち合わせ。
忙しい。
バンドの人たちとの顔合わせ、打ち合わせ、音合わせ、練習に次ぐ練習。
忙しい。
スチール撮影、レコード会社への挨拶。偉い人との会食。
正直言って面倒だなと思うこともあるが、有希への想いがそれを無くした。
叔父さんからメールで俺の動画サイトへ投稿した作品をチェックしては口ずさむ有希の姿を教えてもらい、それを糧にして新しい曲を作る。
有希のことを考えるだけで力が湧いてくる。
有希に会えるまで何年かかるか、
それまでにやれることをやって、大人になった有希を万全の体制で迎えるんだ。
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