アンドリュー伯爵様①



「――はじめまして、リディア嬢。私、アンドリュー伯爵三男・サミュエル・アンドリューと申します」

 あれから数日後、お茶を優雅に飲んでいると、私の離れにお父様は、若い青年を連れて顔を出した。

「彼には、仕事でお世話になってるんだ。その紅茶も彼が推薦してくれたんだよ」

「そうなんですか。挨拶遅れました、伯爵様。わたくしアンダーソンの娘・リディア・アンダーソンと申します」

 私は膝を折りドレスを摘み挨拶をする。

「ご丁寧にありがとうございます」

「いえ……あの、紅茶とても美味しいです」

「良かった。私は昔から紅茶を嗜んでいて」

 アンドリュー伯爵に紅茶とさっきまで焼いていたクッキーやパウンドケーキをだした。

「美味しそうですね、いただきます」

「はい」

 彼は、私が出戻り令嬢だって知っているはずよね。なぜこんな話をしてくれるんだろう。

「このクッキーは紅茶ですね。とても美味しいです」

「ありがとうございます、最近暇なので……」

 あ、暇とか言っちゃダメなやつだよね。というかこの人は何か目的があったりするのかしら。

「ははっ、リディア嬢は正直だ。だが、公爵家のことは知っている。今じゃ簡単な仕事もできず借金をしていて苦情も多いらしい。税金が上がっていると聞いた」

「……そ、そうなんですか」

 借金は初耳だけど……やっぱりそうなるよね。お金が無いからって税金からで賄っているのかも。

「ムーア公爵は、こんな美しい方に離縁しただなんて何を考えているんだろうね」

「え」

「私が、公爵なら君を離すことなんてせず毎日愛すのに」

 何この人……口説きにきたのかしら。それともお父様に言われてきたとか……?

「アンドリュー伯爵様? 何が言いたいんでしょうか」

「私は、君の恋人になりたいんだ」

「……なぜでしょうか、あなたに利はないでしょう?」

「いえ、あなたのような美しい方と一緒にいられることが幸せですので」

 この人ストレートに言うなぁ……よく見たら顔がとても整っているし、銀色のロングヘアもキラキラしていて綺麗だ。

 あなたの方が美しいですよ、と言いたくなるくらい……彼はとても美青年だった。

「お上手ですこと。まあ……友達になら、いいですけど」

 ありがたい話だけど、私はもう結婚は懲り懲り。このままのんびりとここで過ごしたい。

 お父様には悪いのだけど、それに出戻り令嬢に『友達からなら』と言われたらプライドの高い貴族は怒り狂って出ていくと思うし……。だけど。

「本当ですか! リディア嬢……ありがとうございます。また伺いますね」

 彼は怒ることもなく、嬉しそうに少年のような笑顔をこちらに向けてきた。

「えっ」

「では、私はこれで失礼します」

 そう言って、アンドリュー伯爵は去っていった。

 

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離縁されて出戻り令嬢ですが、4番目の王子に寵愛を注がれる。 伊桜らな @koto_yuki

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