離れの生活②
充実した毎日を送っていたある日、驚くべき人が私の元に現れた。
「ご、ごきげんよう……アン夫人」
「この度は、愚息が大変申し訳ありませんでした」
離れにやってきたのは、お父様とアン夫人――前公爵夫人でカルロの母親だ。
「……顔をあげてくださいまし、アン夫人」
「ありがとう」
お父様は彼女にも怒っているようだ、まぁ知っているのに止められなかったからだ。
「お父様、アン夫人は悪くありません。わたくしは、妻なのに関わらず注意できませんでしたし」
まぁ、ほとんど帰ってこなかったのもあるけれど。
「アン夫人は、よくしてくださいました。離縁宣言の日、アン夫人はいなかったのです。それは、カルロ様がその日を狙ったからと思われます」
「ほぅ……」
「わたくしとお義母様の仲を懸念したのですよ、計画が台無しになると」
言っては悪いけど、頭の悪い彼がやりそうなことだ。
「アン夫人がいてくれたからわたくしはわたくしでいられたのです。だから、お父様。彼女を責めないでくださいまし」
「……だが、な」
「確かに公爵様のことは許したくはありません。私に仕事だけ押し付けて遊んでいたんだもの。今の公爵家のことは知りませんが、アン夫人には幸せになって欲しいわ」
私は少しもアン夫人を恨んでいない。というかあの息子から縁を切った方がいいんじゃないかとも思える。
「リアがそこまで言うのなら、この方のことは許そう。リアがそんなに味方する人はあまりいないからね」
「ありがとう、お父様」
「ああ……アン夫人。今までリアと仲良くしてくださってありがとうございました。ムーア公爵のことは許すつもりはない。これからは一切取引もしたくないし金銭炎上もしない」
そうはっきりとお父様は言った。アン夫人は「ありがとうございます」と言い頭を下げた。
「わたくし、この国を離れようと思っています。主人も亡くなっていますし、この国にいても仕方ありません。国王様にもご相談してムーアを捨て、私はただのアンになりました」
「えっ、じゃあもう会えないと言うことですか?」
「ええ。リア様……今日はお別れも言いにきたのです、ずっとあのバカ息子を支えてくれてありがとう。あなたのこと大好きよ」
「アン様……わたくしも好きでしたわ」
この日、アン様は国外へ旅立っていった。それから、平民としてレストランで給仕として働いていると噂で聞いた。その数年後、そこで出会った料理人と結婚したと知らせが届いたのはまだまだ先の話だ。
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