伯爵邸に戻ります②



「リア様、お茶に致しませんか? 料理長がお菓子を作ったのですが」


 少しお昼寝をして起きるとそんな声が聞こえてきた。入ってきたのは、最初に再会したカネリーだ。


「ええ、いただくわ」

「では準備しますね。リア様の好きなアップルパイですよ」

「楽しみだわ」


 カネリーはお皿に盛ってあるアップルパイをテーブルに置き、紅茶を淹れてくれた。


「どうぞ、リア様」

「ありがとう、カネリー」


 なんだか久しぶりのゆっくりできる時間だな……何もせずお菓子をいただけるのは結婚前以来だな。


「これ、ダージリンね! 美味しいわ」

「こちらは、旦那様がいろんな箇所を巡って茶農家を見つけてきたんですよ。確か先月ですかね。今は伯爵邸で独占していますが、ゆくゆくは宿泊施設やレストランでも出したいんですって」

「へえ……お父様らしいわね」


 お父様は昔から新しいことが大好きで、いいと思ったらなんでも取りいれる。そんな人で、まあまずは家で独占してからだけど。そういうお父様が好きだった。

 カネリーとたわいのない話をしていると扉をノックする音が聞こえた。


「失礼いたします、ジャックです」

「どうぞ〜」


 扉が開き入ってきたのは、料理人のジャック。


「ジャム! 久しぶりね」

「リディア夫人、お手紙をお持ちしました」

「ありがとう。もう、夫人じゃないもの……前みたいにリアって呼んで」

「え、夫人じゃない?」


 ジャムは聞いてないのか……あれ、知ってるのは両親だけだったっけ……?


「カネリーには言ってなかったっけ。私、公爵と離縁してきたのよ、出戻り令嬢ってやつね」

「えっ、離縁!?」

「うん。理由は言えないんだけどね」


 そう言って手紙を受け取ると、そこには三枚ある。


「あら、男爵夫人と侯爵夫人、子爵夫人からだわ……」


 その三人は、侯爵邸にいたときによくお茶会をした三人方だ。誕生パーティーを主催し開いてくれたし、迷惑をかけてしまったわ。

 私は、封をナイフで開けると皆同じような文章が並んでいる。だけどその下に【もし良ければリア様の誕生会を改めて開きたいと考えておりますの。都合の良い日を教えてくださいませ】と書かれていた。


 ***



「――慰謝料請求はしない? なぜ?」


 日が落ちて私は久しぶりの誰かとの夕食を楽しんでいた。


「実は、私結婚後は仮面夫婦でして夜の営みはしておりませんの。その努力をしなかったのは私です。なのでおあいこですわ」

「リア……」

「それに、もう一つ。これが大事だと思うのだけど……公爵家当主が行うお仕事はほぼ全て私が行っていたの。ですのでその私がいなくなって今頃困っているわよ」

「それは本当なのか?」


 実のところ、離縁宣言されて少し嬉しくなってしまったのもある。今まで仕事で大変で自由になりたかったんだもの……。


「ええ、あの人遊び呆けてたのよ。友人に聞いた話だと、真っ昼間から女性とホテルに行っていたという話よ。相手は平民ね」

「なんと!本当にクズ野郎だな……」

「でも、愛人様が懐妊してくれたおかげで私も自由になることができました。開放してくださったその方には感謝しかありません」

「そうか、よくわかった。近々、公爵邸に手紙でも出そう。身分はあちらの方が上だが、資金援助はこちらが支援したものが多い」


 確かに、私と公爵の結婚は政略結婚だった。身分が上だと言うことを上から目線でいた気がする。


「手紙は王宮を通そう。燃やされそうな気がするからな」

「確かにそうですね。手間をかけてしまい申し訳ありません」

「そんなこといいんだよ、大事な娘だ」

「ありがとうございます、お父様」


 お父様が優しい方でよかった、とそう思った。

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