第9話 模月さんは伝統を守る
ハートついた手紙をカバンの端に寄せて、教科書を詰め込んだ。
ラブレターにしてはなんだが大きい気がするが今はそんな暇はない。
周りの男どもに見つかる訳にはいかない、まるで機密文書を運んでいるかのような緊張感である。
鞄の口を閉じ、急いで教室から出ると急いで人気のない所へと法定速度が許す限りの速度で急いだ。
辺りを見渡し誰もいない事を確認すると、ラブレターを取り出す。
「大きいな」
外は紙で包み込むように封をしている。
それ自体はオシャレでたまに見かけるのでいいのだが、大きさがノートくらいあるし、感触から言って中の紙は折りたたまれているので更に大きいはずだ。
俺の魅力が凄すぎてこの量になったのか、それとも病んでる方からの手紙なのか
多分後者の可能性が大きいが開けてみないことには始まらない。
「さらば寂しきこれまでの俺、そしておはようこれからのリア充な俺!」
様々な想いを胸に開けた封からは全く想像していないものが出て来た。
「えっと…」
中に入っていたのは新聞だった。
男連中の嫌がらせだろうか、まあ何だかんだ女の子と最近仲が良かったのは確かだがこれではは生ぬるすぎる。
奴らなら俺を告白したい奴がいるとかいって体育館裏に五時間放置したり、
上手に女装した男が告白してきて散々遊ばれて種明かしくらいはやりかねない物だ。
一応辺りを見回して見るがカメラ片手に笑ってる男どももいない。
一応新聞の裏を見てみると文字が書いてあった。
相談部部長 空下 良太 様へ
学園新聞部部長の模月 神奈です。
新聞の認知度向上についてお話したいので、先に相談部の方で新聞の感想や意見などまとめておいていただけると幸いです。
失礼ですが今日は少し用事があるので一時間ほどしてから部室の方に向かいますので
よろしくお願いいたします。
…いやまあ分かってたよ。
いつもそうなんだ、大体この子俺に気があるなとか思うと大体違うんだよ。
もうあんな苦々しい想いはごめんだ。
だがしかし、それが男だと言われればそうな気がする。
この世の中チョロインなどと言われていが、男こそが最高のチョロインである事を
世の女性達には知っておいて欲しいものである。
「はあ…」
ため息をつきながら一人、静かな廊下を歩き出した。
部室の温かい紅茶が待ち遠しかった。
「遅ーい!」
「ごめんごめん」
「何かありましたか?」
「いやちょっと相談部に依頼があってさ」
「流石部長、地球の未来のために仕事を持って来るなんてさすがだね」
悟史が肩にもたれかかるように抱き着いてくる。
「私の友達から離れて頂けないかしら、友達に馬鹿が移るといけないわ」
「助けて良太、琴音さんが僕をいじめる」
「続きは中でやってくれ」
鍵をポケットから取り出してガチャリと鍵を開け鍵を引き抜く。
戸を開け、電気をつけてみんないつもの席に座りだす。
これだけの期間活動してると何となくの習慣がみんなにでき始めていて、琴音さんは
紅茶を入れたり本を読んだり、悟史はケータイのチャットでよく会話して、未咲は漫画を読んだりと、みんな何もない時は思い思いの時間を過ごしているのだが、今日は仕事があるのだ。
長机の真ん中に例の新聞を置く
「一応分かってると思うけどこれは校内で自由に取って読める新聞で、今回はそこからの依頼だ」
「取り敢えず感想ってゆうか意見があるとするなら、この新聞って普通よね」
「特にこれといってね、体育祭とか資格受かったとか、構内の人気スポットベスト
10とか」
未咲の言葉に悟史も頷いて言葉続ける。
内容はいかにも学校で発行してる校内新聞と言った具合だ。
学校生活が始まって数か月が経つが今まで一度も内容を読んだことが無かった。
しかしまあ、なんとゆうか・・・
「つまらないわね」
琴音さんは新聞に一瞬目を向けたがすぐに見るのを辞めた。
「あなた、はっきり言うわね」
「はははは」
悟史は大爆笑で、俺も思わず苦笑いを浮かべるが、これが一番みんなの気持の総意なのではないだろうか。
「みんなの好奇心が釣られるような記事も無ければ、かと言って為になる訳でもない
まるで読む価値がないわ
まだスーパーのチラシのほうがまだマシよ」
はぁ、と呆れたようにため息をつくと勢いよく扉が開けられた。
「一年生の琴音さんでしたっけ」
ずかずかと一人の女性が部室に押し入ってくる。
高い背に、すらっとした顔立ちで角ばったメガネを掛けているので中々の威圧感である。
服装も特に乱している感じがなく、いかにも堅物の優等生といった印象を受ける。
「中々勉強もできるみたいだし人気もあるみたいだけど,そんな言い方はないんじゃないかと思うんだけど?」
鋭い眼光が琴音さんを映すが、本人ははどこ吹く風だ。
「事実を言ったまでよ」
「私達が毎月どれだけ頑張ってるからも知らないのに?」
「意味のない努力は時間の無駄です、通知表に頑張ったで賞がないのはご存知でしょか先輩?」
「確かにそうだけど言葉は選びなさい、これからの社会で困るわ」
「凡人達の作ったルールに興味はないし、その時はそれまでよ」
「あなたはそれでいいかもしれないけど、私達の学校全体のイメージにも関わるの
あなたに能力があるのならより一層気を付けて欲しいわね」
「それはそんな私を面接の時に見抜けなかった学校の落ち度だからその時はそのまま学校のイメージになって構わないわ」
「あなたねぇ」
情けない事に弾丸のように早くて暴力的な会話をただ茫然と聞くことしかできない。
この射線上に立てばもう生きては帰って来れないだろう、などとバカなことを考えてる間に優秀な妹が動いていた。
「まあまあ、取り敢えず紅茶入れたんで冷めないうちに飲んでください」
二人の間に割り込むようにして入り、琴音さんの場所から少し離して置いて置いてある紅茶に視線を誘導した。
「じゃあ早速相談に移るって事でお兄ちゃんよろしく」
ウィンクして、凄いでしょとアピールしてくるが行動が追いつかず生返事で返す事しか出来なかった。
「お、おう」
「じゃあさっそくこの新聞の感想についてからですがその、いかにも学園新聞部らしくていいのではないかと…」
取り敢えず苦笑いを浮かべながら体裁の良い言葉を並べてるがそんなのお見通しとばかりに模月さんは口を開く。
「この新聞がつまらない事くらいは私達も分かってるのよ」
「あら以外ね、てっきりそれを認めたくなくて駄々をこねてるだけだと思ってた」
「違うわ、事実を客観的に見つめて私達はそれを受け入れたからここに来たし
私が怒ったのは、ただそれでもそれを伝える時に相手への配慮が必要だと思っただけよ」
「なら、あなたのいう事も一理あるわね、友達ではないけど少し考えてみるわ」
「良かったわ」
笑顔で琴音さんに笑いかける。
これが同じ部の部長なのだろうか、恥ずかし過ぎて穴があったら入りたいがコンクリートで出来た地面を貫けるほどの力もないのでやめておくことにしよう。
「もうこの依頼って解決しちゃうんじゃない?」
そうなのだ、そこまで分かっているなら俺達の出番は無い気がするのだが。
「それが違うのよ」
腕を組んで項垂れて答える。
「私の部活のみんな真面目過ぎて、みんなの興味のある記事が書けないのよ」
部長がこの人なら確かにそうなのかもしれない。
そして悟史から視線をを俺に移して頭を下げた。
「だから 空下 良太君 私の彼氏になってくれませんか?」
今日は一日で二度目の春がやって来た。
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