部活動開始編
第7話 一人目の相談者 河合 緑 は周りしか見ない
生徒会にその働きを認められはや一か月が経とうとしているが、相談者は来る様子が一向に無かった。
生徒会からの要請には必ず応じると条件の元、部活の設立とエアコンのついた広い部屋が与えられた俺達であったが一向に相談者が来る様子がない。
貼り紙や呼びかけなどはしてみたものの、大抵の問題は自分や友人で解決出来てしまう物で全くと言っていいほど俺らは求められていない。
「いい香りね、これは何て種類?」
「アールグレイです、気に入って貰えたのならどうぞ、持って帰って下さい」
「悪いですよそんな」
「いえいえ、友達なんだから遠慮はいりませんよ」
「そうそう、好意は無駄にしちゃ悪いしね」
「あなたからはここで飲む紅茶のお金も請求したいんですが、良太くんに感謝して下さい」
「ありがとう、良太くん」
「いや、俺は何もしてないから…」
と、この様に琴音さんの提供であるお菓子やお茶をみんなで楽しみ、今日も一日と戦争の始まりが一日近づいた所で部室の扉は開かれた。
「えっと、生徒相談部ってここでいいのかな?」
少し不安そうな声と顔を浮かべながら小柄な女性が立っていた。
「あれ、緑!?どうぞ入って入って!」
女性同士交流の多い未咲が率先して動き、男女で向き合うように座り、琴音さんがお茶を入れ始めた。
「じゃあ失礼しまーす」
とてとてと歩いて来て席に座る。
話し始める前に取り敢えず整理しよう、彼女は同じクラスの河合 緑さん。
活発で明るく誰にでも優しくて話しかけていたのが印象的で
勉強もそれなりに出来るし、特に運動が得意だったはずだ。
クラスので見ている感じ特に困った様子は無かったはずだが。
と考えていた矢先。
「もしかして恋の相談かい?」
「馬鹿ね、緑さんが恋で悩むはずないじゃない、クラスでも相当人気があるのは
悟史君も見てるでしょ」
そう、それだけのスペックの持ち主なのだ彼女がどれだけモテるかは俺ですら理解しているのにどうゆう事なのだろうか。
琴音さんがお茶を出し終わり、早速本人からの相談内容を聞こうとしたが
赤くなって下を向いている顔が答えだった。
「えっと、マジですか緑さん?」
一応確認を入れてみる。
こくこくと首を振っている。肯定のようだ。
「もう誰かから聞いたの?」
「違うよ彼女の普段の目線とか話し方から何となくね」
得意気とゆう訳でもなく、さも当たり前のようにそんな事出来るとか凄すぎる。
まあこれが、本人の能力による物なのか、宇宙人的な物なのかは分からないが。
「相変わらずキモイわね」
「君と違って本と勉強と良太くんだけが友達じゃないからね」
こっちだけで盛り上がっている訳にもいかないので取り敢えず話を進める。
「それで俺らは何を手伝えばいいのかな?」
「えっとね、みんなにバレないようにように青田君を呼んで欲しいんだ」
「緑・・・こう言うと失礼だけど青田君が好きなの?確かに最近ちょくちょく話してるのは見てたけど」
確かに失礼だが未咲の言いたい事も分かる。
俺が言うのもおかしい話だが青田君は少し暗めの普通の男子で、クラスでも特に目立った感じもなく普通の男子だ。
明るい印象の緑さんとはどうも繋がらないところが多い。
「うん、言いたいことは分かるよ」
その意図は緑さんも十分分かっているようで苦笑いを浮かべる。
「傘貸してくれたんだ雨の日に」
ぽつりぽつりと、思い出しながら語っていく。
「その時から何となく意識しちゃってさ、そしたら青田君みんなに優しいんだよね」
「ケガしている人がいたら真っ先に助けにいくし、クラスでみんなが忘れてる仕事があれば勝手片づけ始めるし、取り敢えず困ってる人がいると助けちゃう人なんだ」
一通り言い終えるとティーカップに口を付けてふうっと息をこぼした。
思い出して見れば俺も何度か彼に助けて貰った事があった。
「だからさ、青田君の迷惑にならないようにみんながいない時にこの想いを伝えたいの、だから手伝って下さい」
少し椅子を引きみんなに体が向かうように座り直して頭を下げた。
三人の目線が俺に向けられる。
判断は俺に任せるようだがここまで聞いて引き下がる理由もない。
「分かりました、俺達に出来る事なら何でもする」
「ありがとう」
またいつものひまわりのような明るい笑顔をみんなに向けた。
「それでいつ頃がいいとか具体的に予定はあるのかな?」
「出来れば早くがいいなって思ってるくらいでまだ何にも」
「それなら金曜日でどうだい?彼いつも休日に読む本を買いに一人で本屋に寄って帰るから本屋から出てきた所で」
「いいね、さすが悟史!何でも知ってるね」
「何でもは知らないさ、知ってる事だけだよ」
「結局それだと私達の出来る事がもうないじゃない」
「確かに」
「告白怖くて逃げだしちゃうかもしれないから、未咲出来ればに見守ってて欲しい」
「みんなに見られるのはちょっと恥ずかしいからさ」
「分かったわ、しっかり逃げないように捕まえるから安心してね」
「ありがとう未咲」
「少し聞いていいかしら」
今まで沈黙を続けていた琴音さんが口を開く。
「うん、私に答えられることなら」
琴音さんが話し掛けて来ることに多少驚いたように体を向ける。
「何で告白するのかしら、断られたら今の関係すらも難しくなるんじゃないの?」
「う~ん、難しいね」
少し首捻ってムムムと考える
「自分も相手が好きだから、相手も自分を好きで欲しいそんな感じかなぁ」
そもそもこの問いは命題ではない。
答えはない。
人それぞれの考えが出るだろう。
「ありがとう、参考になったわ」
そう言うと、琴音さんもスーパーコンピューターみたいな頭で分かりやすくムムムと考え始めた。
粗方話もまとまって来たのでまとめにはいる。
「じゃあ作戦を確認していく、本屋から出てきた青田君に緑さんが告白、でいいかな?」
「一応今週本屋行くか僕が自然に確認しとくよ」
「助かる」
悟史なら上手くやってくれるだろう。
「じゃあこれで作戦会議は終了って事で」
「みんな、ありがとう」
「いいのよ、こっちはこれが部活の内容なんだからさ」
「告白の答えなんてどうせオッケーしかないんだしそんなに緊張しなくていいのに」
「無理だよ!オッケーかどうか分かんないし、私から告白するの始めてだから本当に緊張する!」
「やっぱよく告白されるんだ」
「うん、そうなんだよね」
「もうタイミングとかで何となく分かっちゃうし、その度に周りも気を遣うから大変で」
「あーすっごく分かる、更に友達の好きな人から告白されると本当に疲れるんだよね」
「そー!お互い大変だよね」
二人してため息をつく。
「贅沢な悩みだな」
一人ため息をついた。
「良太くんもモテたいの?」
琴音さんが首をかしげて聞いてくる。
「そうだなモテたいな」
「なら私が好きになってあげるわ、友達だもの」
緑さんは顔を赤く染め、未咲はスマホを開き、悟史君は大笑いしていた。
「嬉しいけど、ちゃんと好きになってから言って欲しいかなぁ」
「じゃあそうなったらまた言うわ」
「そうしてくれ、じゃあそろそろ帰ろうか」
時計は6時を過ぎ、そろそろ暗くなり始め、窓の外からはぽつぽつと下校する生徒が見られる。
将来もしっかりとこの時間帯には定時退社したい物だ。
いや、そもそも未来がそれどころではない可能性すらあるのだが。
金曜日の夜、家で待っていると妹が返って来た。
どうせ羨ましい事にカップルが一組誕生したんだろうが一応聞くことにした。
「結果はどうだった?」
「振られたわよ」
「は?」
未咲の表情は暗かった。
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