第34話 旅立ち

 ジャックは両腕を失い、子供たちが古城跡地から見つけてくれた銀の十字架を首にかけ、上半身包帯だらけの身体でベッドの一つに座っていた。半目眼はんめまなこで呆けて緩みきった顔で崩れた孤児院から外を眺めていた。


 次の満月まではこのままだろう。少しぐらいの傷なら人間のままでも治りは早いが、欠損となるとそれなりに時間がかかるし、次の満月を待った方が早い。マリアが治そうか? と申し出てくれたが、欠損を治すまでに何度鼻血を出すことになるのか分からない。出来るだけ子供の脳には負荷をかける訳にはいかないから丁寧に断った。ああ、小便をする時などが一番面倒だがな、片足をあげて、足の指でズボンの裾を掴んでずり下げるのは得意だ。うん、自慢にはならんが得意だ。


 ジャックのすぐ前を、男が材木を担いで歩いていく。


 トンテンカンテンと小気味いいリズムで釘が打たれる音が聴こえる。


 町には活気が戻っていた。早い話が、アルノルトのあの死の閃光、あれで死んだのは数名程だったのだ。病人の爺さん婆さんが逃げられず、立てこもっていた数軒が消えていた。


 アルノルトの異形を目にした住人はすぐにレオ・モリス神父の指揮の元、避難誘導を開始して、町の住人のほとんどが教会へと避難していたため無事だったという。


 メドベキアの町の住人は、町が焼き払われるのを見て震えていた。孤児院の子供たちはその化け物を倒したんだ。町の住人達はこぞって孤児院の子供たちを英雄だともてなした。


 年寄りを失った遺族はもちろん悲しんだが、いずれも高齢で病気を患っていたこともあり、すぐに仇を討ってくれたことと、祭り気分の住人からはそれもすぐに忘れ去られた。



「おーい、嬢ちゃん。この梁持ち上げてくんねーかー?」


「べ、別にいいけど!」


 ニーナが片手を差し出し、指を曲げると、足下の材木がふわりと浮かび上がる。


 ジャックの前を横切って梁がフワフワと二階を超えて天井を支える梁があった場所へと上がっていく。それを大工のおっさんがまた釘でリズム良く打ち込んでいく。


「いやー! 本当に素晴らしいな! ”チカラ”と言うやつは! おれもそんな便利なものが使えればもっと仕事がはかどるんだがな!」


 褒められたニーナは顔を赤くして照れを隠すように胸を張り、人差し指を立てて言った。


「フフン! あ、た、し、だからすごいの! チカラはお、ま、け!」


「ははは! 違ぇねぇ! お嬢ちゃんがすこいんだな! はははは!」


 ……まぁ、早い話、町の住人は今までの態度を改めて、この子達の事を認めてくれたんだわな。そりゃーいい話さ。化け物だなんだと陰で言われるよりはな。


 そして、このぶっ壊れた孤児院も好意で建て直してくれることになったんだ。そりゃあいい話しさ。材木を買ってきて一から設計などしなくて言い訳だからな。でもな、俺も活躍したんだぜ? 扱い違くない? まあ、元々、町の連中とうまくやれなかったせいもあるけど。



「おう! 小娘! 今日も料理持ってきてやったぞ!」


 メドベキアの町の海浜亭から、たくさんの料理と食材を乗せて歩いてきた大柄なスキンヘッドは、酒場で暴れていたマリアを外に放り投げた張本人だ。


 だが、町を救ってくれた英雄として謝罪し、沢山の料理を毎日のように持ってきてくれるようになった。(なんとあの見てくれで料理も出来るんだ。しかも俺よか美味い。認めたくはないがね)


 マリアが言うにはスキンヘッドの男は、名をデール・オルソンと言うらしい。(昨日聞いた)


「いつもありがとう! デール! でも、私は、マリア! いい加減覚えてよね」


「ハッハッハ! 百年早いぞ!」


「どうだ! ハチミツ酒もあるぞ!」


「うぇっ! やめとくよ! 一昨日は飲み過ぎちゃって」


「なんだなんだ? そんなんじゃ婿も貰えないぞ?」


「そんなんで貰えるとは思いませんー!」


「ハッハッハ! 元気があっていいぞ! 小娘!」


「まったくもう!」


 そう言って笑うマリアはどこか嬉しそうだ。今はデールと一緒に材木を担いで運んでいる。


 子供がお酒なんか飲むんじゃありませんよ。まったくもう。まあ、お祝いなんだからいいけどさ。まぁ、早い話、英雄なんだ。子供たち。いやぁ、素晴らしいほんと。いい子達なんだ。



 ジャックが視線を移すと、礼拝堂があった場所ではシャオが町の怪我人や病人を診ていた。礼拝堂の残っていた長椅子は、待合室にはちょうどいいらしく老若男女の集まる場所になっていた。そこで囲まれるようにシャオはいた。


「シャオちゃんはいいお医者さんになれるわね~、本当に可愛いし」


「そんな、私なんかがお医者様だなんてとんでもないです」


「あら~可愛いのに謙虚なのよね~、どうだい? 家の孫の所に嫁に来ないかい?」


「な、ななな、何言ってるんですか! わたっ私まだ子供ですよ!?」


「恋に年齢なんて関係ないのよ~? シャオちゃんはウブで可愛いわね~」


 おばさんは思い出したように立ち上がり言った。


「あらやだ、話し込んじゃったわ~、ごめんなさいね。他の方も診なきゃいけないのにね~、でも、お嫁に来るお話しは考えておいてちょうだいねぇ」


「もう! からかって! はい! 次の方~」


 シャオは薬の調合でひと財産稼げそうだ。いい事だ。うんうん。英雄でお医者さんか。家の一番の出世頭になるかもしれんなぁ。



「おお! この兄ちゃん達はいい食いっぷりだなあ!」


 およそ半分になってしまった俺の手作りテーブルは、今は改造されて粗悪な脚がついた簡易テーブルになってしまっている。美観のクソもない。


 そのテーブルの上では、ルディとビリーが大食い競走の真っ最中だった。


「おお! こっちの帽子の兄ちゃんすごいぞ! パンの二本食いだ!」


「こっちの兄ちゃんも負けてないぞ! 麺を啜る勢いが違う! もっともってこい! 足りなくなりそうだ!」


 周りはいいぞいいぞ! と煽り、当人たちはムキになって食べ続けている。お互いの引き際を見抜けず、チラチラと相手の様子を伺いながら無理やり食べているのが丸わかりだが、誰も止めてくれるものはいない。顔色が悪くなってきたように見える。


 二人とも、その辺でやめとけ。ダイナマイトでも突っ込まれたみたいに腹がぶっ壊れるぞ。



 カインはミカエルとの散歩中に沢山のお年頃の女たちに捕まり囲まれている。中には熟した夫人もおられるが。カインはミカエルを抱え上げたまま甘い声で四方八方から囁かれ、逃げ場を失い、真っ赤な顔で応対している。少しはこっちにも回してくれ。



 ルディとビリーがほぼ同時に椅子ごとひっくり返り、勝負は僅差でルディの勝ちで終わった。


 周りには盛大な笑い声が響き、喜ぶ声と残念がる声とが入り交じる。賭けをしていたんだろう。俺は賭けに勝ったがな。あの二人がほぼ同じ量を食べるのをいつも見ているんだ。外しようがない。まあ、今は金がないから賭けてないけど。手もないし……。


 シスター・リースは吸血鬼化のため、昼間は出てこれないが夜の間は酒盛りなどを一緒に楽しんでいた。昼間は体調が優れないからと休んでいることにしているのだ。さすがに、吸血鬼に町を焼き払われたのに吸血鬼になったシスターがいるのはまずいからと言うことだ。それにしても、シスター・リースの精神力はものすごい。


 普通、吸血鬼化した者は完全な飢餓状態になるものなのだが、シスター・リースはその精神力だけで血に対する衝動を押さえ込んでいるのだ。これがどれだけすごいかは説明しずらい。


 そうだな、例えるなら、激辛な物を食べ続けながら、目の前に並々と注いである水を飲まないようにしているって感じかな? まあ、それでも少し弱いぐらいだけど。だいたいそんな感じだ。(だって吸血鬼になったことないんだもん)


 町の方からアンバーがチカラを使って猛スピードで走ってくるのが見える。いや、実際には見えてないんだけど、あれだけ砂煙出しながら走るのってあの子だけだし。


 そのアンバーが走ってきて、カインの傍の娘達はアンバーが巻き起こす強風に煽られて倒れ込む。ジャックはニヤニヤとその様子を見ている。



「カイン! あった! ついに見つけたよ! レオ神父様が手伝ってくれてやっと見つけたよ!」


「本当か! アンバー!」


「うん!」


「教会の文献や町の本全部読んだんだから! たぶんこれで合ってる!」


「……たぶん?」


「うん!」


 カインはアンバーを見つめた。


「……なに?」


「い、いや、なんでもない」


 カインは一枚の紙を受け取った。そこにはアンバーの綺麗な字でこう書いてあった。


『吸血鬼を人間に戻す薬の作り方』


 一、暗黒稲穂から取れる漆黒米。


 二、腐りかけのニンニク。


 三、聖水。


 四、死者の血。


 五、ブロック人参。


 六、七色のじゃがいも。


 七、雷雲玉ねぎ。


 八、カレールゥ。


 それらを弱火でコトコト三日三晩煮込む。その際、かき混ぜ棒で焦げ付かないよう混ぜて出来上がり。


 カインは合掌するようにメモをパタンと畳んだ。孤児院の庭を歩いていき、天を仰ぎ見てゆっくり流れる雲を見ながら庭の木に手をついた。日光がカインを余すところなく照らし、カインは眩しそうに手をかざした。


 町の生娘たちはその美少年の肖像画にもなりそうな光景をうっとりと熱っぽい表情で見つめていた。カインは息を大きく吸い、感情の赴くままに解き放った。


「料理か! バカなの!? 後半カレーじゃねーか! バカなの!? 八なんだよ! カレールゥって! カレーじゃねーか! バカか!」


 娘たちはカインの様子を見て少し距離をとった。


 うんうん、分かるよー。残念な子なんだよ。ストレス溜まるとああやって発散するんだ。ごめんね。うちの子イケメンなのに残念で。


 カインはまだ両手を口に当てて空に向かって叫んでいる。


 アンバーは慣れたようにカインを放って、ジャックのベッドに腰掛けて聞いた。


「ねぇ父さん、やっぱり、旅に出ちゃうの?」


「ああ、カインと二人でな。過酷な旅になるだろうからな。町の人たちやマリアたちもいるから寂しくはないだろう?」


 アンバーは押し黙り、諦めきれずに顔をあげて言った。


「……やっぱり私達も連れて行ってよ。父さん」


「いやいや、ダメだよ。本当に危険なんだ。この町は、端っことはいえ教王権だから比較的安全だけど、他の町は本当に危険が多いんだ」


 アンバーはベッドの脇で脚をブラブラさせて言った。


「シスターには言ったの?」


「え?」


「……シスターには、私たち置いて行くこと言ったの?」


「うぅ……や、やばいと思う?」


 アンバーはまるで怪談話でもしているかのように肩をすぼめて言った。


「ものすっごぉ~~くやばいと思う」


「……なんのお話しですか?」


 いつの間にかシスター・リースがジャックの後ろの暗がりに立っていた。声をかけられるまで、まったく気配がしなかった。恐るべし吸血鬼。


「シ、シスター・リース、その……ど、どこまで聞いてました?」


「カインと二人で、のとこかしら?」


「全部だね」


 アンバーがニヤニヤと嬉しそうにトドメを刺しに来る。ジャックは慌てて釈明した。


「いや、でもほんと危険なんだよ? 俺なりにみんなのためを思ってだなぁ」


「そう、そんな危険でみんなにとって大事なことを、相談すらしてくれないんですね」


 シスター・リースは悲しそうに階段の下の暗がりで言い、ジャックはオロオロと狼狽えている。


「あ、いや、そんなつもりは……」


 助け船を求めようと後ろを振り向くと、アンバーがとぼけた顔で肩をすぼめてみせた。女ってやつは……。


「わ、分かったよ。みんなはどうしたいんだ?」


「もっちろんついて行く!」


 アンバーはニッコリと微笑んだ。


「でも、シスター・リースはどうするんだ? 一人でここに残ってたら、そのうちバレるんじゃないか?」


「行きますよ、私も」


「え? いや、だって日光……」


 まだ屋根も壁も修復し終わってない大ホールの階段の下から、シスター・リースは陽の光の中に歩み出た。


「ちょっ!……まっ!……」


 シスター・リースは両手を広げ、全てを受け入れるように目を瞑って煌びやかな陽の下に立った。


 何ともない。シスター・リースは陽光の中で気持ちよさそうに微笑んだ。ジャックは狐に摘まれたかのように口をあんぐり空けてリースを見つめた。


「……な、なんで?」


「町の子達に教えてもらったんですよ。お化粧」


「いや、でも、さすがに塗りすぎじゃね?」


 そう、シスター・リースは吸血鬼化のため死人のように真っ白な肌をしていた。それが化粧をした事で今は雪のように真っ白だ。


 ジャックの腕のない包帯の袖をグイグイと引っ張りアンバーは耳元で囁くように言った。


「父さん、女性がお化粧して見せたら褒めるものよ?」


「え? そ、そうなのか?」


 アンバーは刷り込むように何度も頷いてみせる。


「き、きれいだよ、シスター・リース」


「あら、ありがとうジャックさん」


 シスター・リースは嬉しそうに笑い、子供にメっと叱るように指を立てて言った。


「リース……でしょ?」


 照れたようにリースは「ジャック?」と言った。


「これなら、一緒に行けますね?」


 リースは後ろ手に組んで、ジャックの顔を覗き込みながら微笑んだ。


「あ、ああ、そう……だな。いや、やっぱりダメだ」


 ここは心を鬼にして。


「本当に危険なんだ。ここにいた方が……」


「危険? そんなの慣れっこじゃない? 私たち?」


 マリアはトマトを齧りながら、こちらへ歩いて来ながら言った。


「私たちってば、ものすごーく強い”特別”な”英雄”なのよねー」


「そ、そーだけどさ……」


 ジャックは尚も抵抗した。


「父さん、まじで置いていこうとしてんの?」


 いつの間にかビリーとルディが肩を組んで、大きなお腹からヘソを出したまま立っていた。口の周りに食べ物をつけたままゲップ混じりにルディは言った。


「ふーん。ゲフっ、なあ、どう思うよ? ニーナ?」


 ニーナが階段の上からじっとりとジャックを見下ろしていた。恐ろしく軽蔑したような目だ。(そんな目で見ないで……)


「へぇー、私たちに黙って置いていこうとしてたんだぁ……へぇー」


 ニーナは恐ろしく冷たい笑顔を見せた。目がちっとも笑ってない。


「ねぇ、シスター、父さんったら書斎の本棚にエロ本隠してるのよ」


「わーわーわーわー!!」


「ななな何言ってんの? そんなもん持ってないしー! 持ったこともないしー! 両手ないしー!」


 リースは恐ろしく冷たい目でこちらを見ている。まるで汚いものでも見るような目だ。(やめて、そんな目で見ないで……)


 ジャックが黙ったまま、モジモジしながら罪人のように俯いていると、カインがミカエルを肩に乗せて歩いて来て言った。


「父さん、父さんの負けだよ」


 ジャックは深い、本当に深く長いため息をついて言った。


「分かったよ、降参だ。みんなで行こう」


 うわーっと子供たちは大喜びで飛び跳ねてハイタッチすると走り回った。しっかりしててたまに忘れてしまうが、この子達はまだ小さい子供なんだよな。


 リースがベッドに座るとギシッと音がして、リースは子供たちの喜ぶ様を見ながら言った。


「あなたの絵本みたいですよね。私たち」


 ジャックは片方の眉をあげて、どういうこと? と促した。


「あなたは月が見れないけど、キレイな朝日が見れる。でも、私は朝焼けが見れなくなって月が見れるのね」


「ああ、そんな風になっちまったな」


 ジャックは口の端を持ち上げて言った。


「皮肉なもんだ」


「私はそれなりに楽しむことにしましたよ。みんなに治してもらうまでは、それは大変かもしれませんが、この子達ならいつかきっと治してくれると思いますし、あなたの長命ちょうめいにも寄り添えますしね」


 ジャックは驚いた。この切り替えの早さだ。女ってのは悩んでから決めるまでが本当に早い。そして、決めたらその道を行く。見習いたいものだ。


 カインは大きな荷物の前で腰に手を当てて言った。


「ねぇ、父さん。また持っていく荷物とか荷造りし直さなきゃならないね。どうしようか?」


「ああ、そうだな。またリストを作り直そう。全員分だからな。大荷物になるぞ。考えておくから、今は自由にしてていいよ。カイン」


 カインは頷いて、ミカエルの手を引いてマリアたちの元へと歩いていった。マリアはデール・オルソンと腕相撲を始めようとしていた。


「ねえ?」


「ん?」


「あの時、やっと、リースって呼んでくれましたね?」


「あ、いやあれはその……」


 リースは顎をひいてジャックの目を伺うように見つめた。


「いや、呼んだよ。初めてだな。そう言えば」


「あの稲光の雨の晩、狼男の姿のまま、小さなカインと手を繋いで朽ちかけたこのグレイス孤児院に来てから、全てが始まったような気がします」


「あれから、七年も経つんだな。早いもんだ」


「あなたとカインは、この孤児院を建て直してくれ、崩れかけた礼拝堂しかない場所を任されたばかりの私には、”運命”のように感じたものですよ」


「ははは、懐かしいな」


「ええ、私には一番大事な思い出ですよ」


 リースは口元に手をやってクスリと笑った。


「建て直した礼拝堂のおかげで教皇庁からの支援金も増えて、問題児だなんだと孤児院をタライ回しにされていたこの子達を引き取って本当に良かった。これもあなたとカインの”運命”の導きなのだと思います」


「うん、最初はどうなる事かと思ったけどな。今では、この子達の事を誇りに思っているよ」


「ええ、私もです」


 リースはジャックの腕のない肩に頭を乗せて寄りかかった。


 ジャックは腕があれば抱き寄せたいと思った。リースの桃色の髪が垂れている額にそっとキスをした。


 リースはジャックに顔を向け、ジャックの顎に鼻をツンと当て、先を促すように目を瞑った。ジャックはリースの火照った唇に口づけをした。


 ふと、何かが降ってくるのを感じて目を開けると、空から沢山の色とりどりの花びらが二人が座っているベッドに降っていた。


 わーっと子供達が歓喜の叫び声をあげて、いつの間にか登っていた二階から駆け降りて来た。


 この花びらは子供達が集めたらしく、ベッドもジャックもリースも花だらけになっていた。可笑しくなった二人は笑った。子供たちもキャッキャと笑い合い、ミカエルがフワリと宙返りしながらリースの胸に飛び込んだ。


 子供たちは口々に「おめでとう! 結婚おめでとう! 赤ちゃんおめでとう!」と言い合った。


 ジャックとリースは顔を見合わせキョトンとした。そして二人は吹き出したかと思うとまた身体を寄せ合い笑い合った。


 子供たちに、赤ちゃんがどうやってできるかなんて説明するのかと思うと、頭が痛いが、何とかなるだろう。ジャックは再び熱いキスをした。


 子供たちの成長を間近で見れる。頭を悩ませ導いていく。神の課した試練の中で、これほど困難に満ちて、幸せな道は他にはないだろう。それでも、この罪と罰もこの身の呪いさえも受け入れ、抗い、乗り越えていこうと思う。幸い、一人ではないのだから。


 ニーナが両手を上げてくるくると回ると、それにつられて散らかった花びらが息を吹き返したように舞い上がった。


 この素晴らしくも超危険な家族と共に歩んで行こう。


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