第2話:違和感
彼女は3歳の時にある違和感を覚えた。それは、彼女が通っていた保育園では夏は男の子がハーフパンツ、女の子がスカートと決められていて、彼女はスカートをはかないといけない事に違和感を覚えていた。そこで、母親は「うちの子スカートを嫌がるので、ハーフパンツでも良いですか?」と園に問い合わせると、担任の先生は「これは園の決まりなので、スカート以外を着ることは他の子たちに悪影響が出るので・・・」と他の子たちと同じ服を着て欲しいと伝えてきた。そこで、彼女の下にいつも着ているハーフパンツをスカートの下に着ることでなんとかごまかせた。実は彼女は以前からスカートや可愛いワンピースなどに興味を持たず、いつもハーフパンツやジャージのような服を好んで着ていた。そのため、保育園の年中さん以降は制服のスカートを嫌がり、何度も先生に下にズボンをはくことの許可をもらいながら保育園に通っていた。
そして、卒園アルバムの写真を撮るときも女の子の集合写真にも男の子の集合写真にも参加しようとしていたのだ。先生は「結愛ちゃんは女の子だから女の子の集合写真に参加してね。」と言った。結局、彼女はどちらの写真にも写ることなく、集合写真の時も端の方に立って、目立たないようにしていた。
その様子を見た先生は彼女がわがままを言っていると思ったのだろう。彼女に「あなたは女の子なのよ。なんで、ズボンをはいて園に来るの?」と彼女を怒ってしまった。
すると、彼女が「僕は女の子じゃない。」と先生に言い返したが、先生は「女の子なのだから僕ではなく私でしょ?」と彼女の言葉を変えようとしていた。
その後も何度言っても直らないため、先生は彼女の母親の携帯に連絡をして、母親に「娘さんの最近のことで話がしたいので、お時間作っていただけませんか?」と告げて、その日に園に来てもらう事にした。3時間後、仕事を終えた母親が誰もいない保育園に来た。
そして、彼女は園の応接室のような場所に通されて、先生が来るまで待った。15分後、彼女の担任の先生と年長主任の先生が彼女の待っている部屋に入ってきた。母親は「はじめまして。結愛の母親です」と年長主任の先生に挨拶をした。
そして、年長主任の先生から「結愛さんは最近、女の子と遊ばないで、男の子とばかり遊んでいて、言葉も私ではなく僕、食べ方も男の子みたいな食べ方をしているのですが、家ではどのような感じなのでしょうか?」と聞くと、母親は「彼女は家には兄がいるのですが、兄の事が大好きで、兄の真似ばかりしていたので、私も少し気にはなっていたのですが、保育園ではそんなに酷いのですか?」と返した。
その後、先生から「先日、卒園アルバムのクラス別の写真を撮ったのですが、その時も男の子の写真に一緒に写ろうとして止めた時に少し拗ねてしまって、結局彼女は集合写真以外の写真撮影には参加していないので、載せるために必要な彼女の写真をどうするかを考えないといけない」と彼女の卒園アルバムの年中組の写真をどうするかを決めなくてはいけない事態になっていた。
この話を聞いて、不審に思った母親は近くの病院にある小児心療内科を受診するため、いつも行っているかかりつけの小児科を受診した。すると、先生から「結愛ちゃんは1度カウンセリングを兼ねて、小児心療内科を受診した方が良いかもしれないね。これ以上症状が進んでしまうと本当に治療が困難になるから早く気が付いて良かった」と言われて母親は胸をなでおろしていた。
そして、小児心療内科の予約を取ろうとしたときに母親はびっくりしてしまった。なぜなら、初診の予約が2週間待ちで、診察する先生も子供と同性の先生が担当してくれると知ったからだ。
そして、普段通りに保育園に通いながら初診日を待った。この病院は土曜日に受診できる数少ない医療機関で、土曜日は共働きの家庭のために朝8時30分から夜の20時まで診察してくれるというすごい病院だった。
初診日当日、彼女は14:00からの診察だったため、父親も一緒に病院まで付いてきてくれて、一緒に診察室の前まで来てくれたのだ。当日は人気の先生が再診の診察をしている事からかなり遠方から受診してくる人も多く、診察室はかなり混雑していた。
そして、時間になり、彼女の前に3人いた14:00予約の初診の人たちが順番に中に入り、先生の診察を受けていた。
その間、結愛は好きな本を読んで待っていたが、待つのが辛くなってきたのか、お父さんと病院内を散策に行こうと動き出す、トイレに行くにもお母さんではなく、お父さんとトイレに行こうとするなどどこか母親との距離がかなり遠くなっている印象だった。
そして、彼女の順番になって母親と2人で診察室に入っていった。父親はその姿を確認し、車に戻った。そして、車のエンジンをかけ、コンセントからパソコンの電源を取り、来週の月曜日にある会議の資料を作り始めた。
2人を見送ってから1時間後、診察が終わり、2人が出てくると父親は「今日の診察どんな感じだった?」と母親に聞くと「家帰ってから話すから」と言ってどこか困惑した様子でシートベルトを付けていた。
そして、20分で家に着き、彼女はお兄ちゃんが遊んでいる部屋に向かって一目散に走っていった。そして、父親と母親が家に入り、2人でリビングのソファーに座りながら今日の診察について話し始めた。
まず、グレーゾーンとしては“性同一性障害”と“適応障害”が主で、それ以外にもいくつか疑うべき症状が出ていることが分かった。
そして、経過観察ということにはなったが、時折視線が合わない事もあったことから対人障害など別の病気も疑われた。
これは、彼女の姉の時も兄の時も現れなかった症状で、両親にとっても初めての経験だった。
そして、定期診察を半年ほど受けたが、原因は掴めなかった。そして、時間の経過と共に彼女の心理状態は更に解決困難に近い状態になっていた。例えば、トイレに入るときも立ったまま入ろうとすること、木登りなど女の子はあまりやらないことを平気でやるようになり、水遊びでも男の子用の海水パンツをはいて参加しようとするなど女の子なのだが、女の子として本人が受け入れていないのではないか?という心配が先生の脳裏に渦巻いた。そして、普段からズボンをはいている癖なのか、スカートを履かなくてはいけない場面であっても足を開いて座ってしまうなど先生はこれから先彼女が辿っていく人生の中できちんと精神発達が正常に行われていくのかが心配だった。
そして、保育園でクリスマス会をやったときも男の子がやる役を彼女がやりたいと言い出して、先生が「結愛ちゃんは女の子だから男の子に譲ってあげてね」と言っても「ゆあちゃんは男の子だから別にそれをやってもいいでしょ?」と先生に対して反抗していた。
先生は彼女を別室に連れて行き、「結愛ちゃんは女の子なのに何で男の子と同じ事ばかりするの?先生はあなたに対してどのように接して良いのか分からないの。」と本音を漏らした。その話を聞いても彼女はきょとんとしていて、先生の話に対してどこ吹く風状態だった。
この頃、家でも彼女の行動には手を焼いていた。そして、彼女の行動が直らないことに対して母親は自暴自棄のような状態になっていた。なぜなら、数日前から彼女の家の近所で「あそこの家の娘さん女の子らしくないよね。ご両親のしつけが悪いのかしら」という噂話が街中に広がっていて、母親が同じ保育園に通っているお母さんからも「結愛ちゃんどこかおかしいの?」や「結愛ちゃんと遊ばせるのが恐いんだけど」という心配する声や距離を取ろうとする家庭などが次第に増えていき、両親はどうやって彼女を矯正しようか悩んでいた。
ただ、母親はこういう行動は今だけだから問題ないと思い、カウンセリングを根気強く受けて、カウンセリングを受けながら自分の違和感を彼女に気付いて欲しかった
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