【ZAW】ハロウィン

「ハロウィン?」

 聞きなれない響きに青髪の女性は首を傾げた。友人である結衣菜が変な言葉を口にしたのだ。ティリスの疑問は同じく古くからの友人である銀髪の青年、ガクが代弁した。

「それも元の世界の何かか?」

「うん。まぁ正確にはあたしたちの国のお祭りではないんだけど。みんなで仮装して、知り合いのお家を回ってトリックオアトリートって言うの、お菓子がもらえたりするんだよ」

 再び登場した聞きなれない響きにティリスはさらに首を傾げた。周りを走り回っていた金色の狼が近づいてきたかと思うと突然煙に包まれる。

「けほっ……チッタ、変身は少し離れてしてよ〜」

「ごめんごめん、ユイナの話が気になっちゃったからさ! で、なんて言うんだっけ? とりっくお……」

「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ! だよ!」

「それは子供の遊び? 可愛らしいわね」

「最近は大人も多いかな。ね、せっかくだしあたしたちもやろうよ!」

「いいな! 俺もお菓子貰いたいし!」

 そうして、日本式ハロウィンinディクライットが開催されることとなったのだった。



 誰がどんな仮装をするかあーだこーだやっているうちに時間は進み、あっという間に夜が来てしまった。一同はとある知り合いの家へと向かっていた。

 こんこん、とノックを鳴らす。しばらくすると明るい声が返ってきた。一同は顔を見合わせて扉が開くのを待つ。

「誰ですか〜!」

 扉を開けて顔を覗かせたのは桜色の髪の青年、エインだ。その奥から二つ結びの女性、アメリアがつづく。

『トリック・オア・トリート!』

「え!? なんですか〜!?」

「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ!」

「しちゃう!」

 前に出たのは狼男だ。耳をピンと張った彼は犬歯を覗かせてがお〜と笑った。隣には黒猫の女性。猫の手の真似でにゃお〜と鳴いてみせる。

「何やってるのティリス、チッタ〜、かわい〜!」

「お菓子をご所望ですか? アメリア、昨日作ってくれたクッキー、まだありますか?」

「あるある! ちょっとまっててね〜」

 アメリアはそそくさと家の奥へと消えていく。狼男のチッタは満面の笑みで後ろを振り向く。

「やった! 成功だぜユイナ!」

「やったね! さすがエイン君だよ〜!」

「あはは、たまーにユイナさんが持ってくる向こうの世界のお祭りでしょう? ユイナさんとガクさんはどう言う格好ですか?」

 とんがり帽子に箒、オレンジに紫色とカラフルな服を着た結衣菜と、襟の立った長いマントを羽織ったガクを見て、エインは考え込む。

「あたしは魔女! まぁほんとに魔法があるこの世界で魔女っていうのも変なんだけど……」

「俺は吸血鬼っていうらしいよ。なんでも人の血を吸う化け物なんだとか」

「え、何それ怖いですねぇ〜そんなのがいたらすぐ騎士団に討伐依頼が来ちゃいますよ!」

「ガクは討伐しちゃダメだからな!」

 勢いよく立ち塞がったチッタを見て、一同の笑い声が映える。無事アメリアの手作りクッキーを手に入れた彼らは、次の目的地へと向かっていった。



「しょっちゅう来てるとはいえ、こんな格好してると誰かに見つからないか不安になるね」

「この時間はほとんどみんな休んでるから大丈夫。裏口からだし。ほら、誰もいなかったでしょう?」

 ティリスは普段はクソがつくほどの真面目だが、こういう時はかなりノリがいい。生来楽しいことが好きな性格なのだろう。たまにずれていることはあるが、それはそれでこの世界で元の世界を楽しむときのスパイスになる、と結衣菜は思う。

 本日二回目のノックだ。はーいという声が返る前に、魔法研究所と書かれた扉が勢いよく開いた。

『トリック・オア・トリート!』

 中から飛び出してきたのは白い布だ。それは勢いよく飛び出してきて、結衣菜たちに籠を突き出した。

「わ、なに!?」

「え、嘘、被った!?!?」

 驚いた声は結衣菜がよく知っている人物だ。二つ並んだ白い布の塊のフードの下からは悠と風の双子が顔を覗かせた。

「結衣菜ちゃんたち!?」

「悠、風!?」

「ちょっと、依頼主だと困るんだけど……ティリス? え、可愛い」

 驚いている一同を差し置いて後ろから出てきたのはディランだ。

「え、ガクさんドラキュラ!? すご、美形がやると本物みたい〜かっこいい〜!」

「なんだ〜双子もやってたのか〜、ディランさんにお菓子貰いに?」

「そうそう! なかったからさっき買ってきてもらった!」

「そう、わざわざね。お化けが増えちゃったからどうしようかな」

「お前らいつまでぎゃあぎゃあやってん……え、そういう日なのか今日……?」

「陛下まで!?」

 さらに奥から出てきたのはこの国の王だ。全く場に似つかわしくない面々が揃い、混沌とした世界が繰り広げられる。

「俺は普通にディランに用があったんだよ! そしたらこの馬鹿たちがきて菓子をよこせとか訳のわからないことを」

「いたずらにしてもいいんだよ?」

 小さな白いお化けは王に向かってベーッと舌を出す。アルバートはうんざりといった顔だ。

「お前のいたずらはいたずらじゃ済まなそうだからダメだ! もうめんどくさい、こんな時間だけど茶会にするからお前らそのわけのわからん服を着替えてこい! 話はそれからだ!」

「やったーー!! お城のお菓子ー! やっぱり持つべきものは王様の友達!」

「お前は菓子抜きな!」

「えー!!?」

 城の廊下に風の悲鳴がこだまする。半ば強制終了させられた日本式ハロウィンinディクライットは、アルバート王による私的茶会によって一応の幕を閉じることとなったのだった。

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