海に最も近い駅
快晴の空は青く、遠くに見える水平線もまた碧い。白い砂浜を挟んで、華やかな薄紅色の花びらが舞っている。白いペンキで塗られた駅のホームから見えるのはそんな景色だ。
『海に最も近い駅』とはよく言ったものだ。
初めてこの駅に来た時のことはよく覚えている。それは今日と同じようなある春の昼下がり。君はこのホームの小さなベンチに座って、一人海を見ていた。
なんだかその小さな後ろ姿が寂しそうで、気がついた時には声をかけていた。
近所の小学校の桜がここまで風に乗ってくるの、すごいよね、と君は目を細めて笑った。それが君との出会いだった。
それからいくばくかの時を過ごした。その思い出はいつもこの白い駅で、海はいつも穏やかに僕らを迎えてくれた。
時には海まで行こうと誘うこともあった。けれど君は必ず、首を横に振って悲しそうに笑うから、僕はそれ以上踏み込めなかった。
そしてある日、桜の花びらがあっという間に散って消えてしまうように、君は消えてしまったんだ。
それからというもの、僕はずっと、この小さなベンチに座って海を見ている。
今度は君がきっと、声をかけてくれるはずだから。
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