【ZAW】誕生日
「……これは?」
昼下がり、紅茶を嗜んでいた妻はこちらを見て首を傾げる。長く美しい夜空色の髪が垂れた。
「誕生日おめでとう」
手渡した彼女の髪と同じ色をした花が詰まっている。ハッとしたその表情は次の瞬間には柔らかい笑みに変わっていた。
「そうね、誕生日だったわ……ありがとう」
「忘れてたの?」
ずっと忙しかったから。と返す妻の目はどこか遠くて、きっとそれはこれまで失った数多くの仲間たちを見ている。その痛みを少しでも軽くできたら。
何ができるというわけではなかった。しかし、群青色の花を眺めて目を細める妻の頬に、優しく触れてみる。
見開かれる目、紅潮する頬。どんなに触れ合ってもそんな反応を返してくれる彼女が、この世界の何よりも愛おしい。
「愛してるよ」
これからはずっと、彼女の隣でこの言葉を伝える。そうして少しずつ、その痛みを減らしていくのだ。
そんなささやかな幸福が続くように、『生まれてきてくれてありがとう』そんな祈りのような言葉を紡ぐのだ。
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