【ZAW】いまはまだ
はらはらと舞う雪は広い城下町を白く染めていく。長く艶やかな青い髪の女性はバルコニーの塀に積もった雪をほろって白銀の街を見つめる。同じく真っ白な息が灰色の空に消え、その常盤色の瞳は少し憂いを帯びていた。
どれだけそうしただろうか。長い間外の風に吹かれて冷え切った体を包み込む暖かさがあった。
若葉色の髪の彼は私を優しく抱きしめる。後ろから伸びた手に自分の指を絡めて、その恋人の名を呼んだ。
「ディラン」
「ティリス」
耳元で囁く彼の声がとても近くて、その声に顔を向けると別の暖かさが唇に満ちた。柔らかい感触。
驚きで彼の顔を見ると澄んだ湖の色の瞳がこちらを見つめていた。恥ずかしさで火照った自分の顔がそこに映る。
焦って目を瞑っても、熱はそれでは終わらなかった。優しい指が頬を撫でて耳に触れる。続きを求めるように唇に再び熱が走った。感じたことのない感覚が襲う。思わず強く抱きしめてしまった自分に気づいて、身を引いた。上がる息。
これ以上、続けてもよかった。続けたかった。けれど今はまだ、その時ではない。背負った立場の責任が彼を拒む。
彼の目は揺れていた。とても悲しそうな色をしたそれはしかし、優しさに満ちていた。彼は再び私の頬を宝石にでも触れるかのように繊細に撫で、そして微笑んだ。
別の熱が頬を滑った。それは情熱の涙ではない。いまはまだ触れ合えない貴方と、いつか幸せに満ちた時間を過ごせるだろうか。
どうかそんな日が訪れますように。今はそんな願いをかけるしか、私にはできなかった。
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