【ZAW】花色の髪 (ねこやなぎ会#5 髪)

 妻の髪はほんとに綺麗だ。


 遠くから見ても彼女は一目でわかる。それはひとえに彼女の髪がとても長く、そして鮮やかな青色をしているからである。

 その色はこの国の所々で群生している瑠璃色の可憐な花と同じものだ。生まれたばかりの我が子を見て、彼女の両親はその花から取った名をつけた。

 彼女は名にふさわしい可憐な少女へ、後には高所の丘でも強かに蕾を開くその花のように凛とした女性へと成長した。そして、僕の妻となった今でも花のような美しさは衰えることはない。

 彼女が歩くたびに、その髪は揺れる。振り返った時に追従するその流れは息を呑むほど艶やかで、彼女の稀有な美しさを引き立てている。

 普段は一つに纏めているその髪を下ろした姿を見れる人間は少ない。毎夜彼女の髪を梳く度にその滑らかさを褒める。貴方が梳いてくれるから、と返して微笑む彼女の心のまっすぐさに触れるとしなやかに育った髪にも納得がいく。

 絹のような触り心地のそれを撫でると彼女が本当にここにいるんだと再認識する。彼女のぬくもりはそこから伝わるわけではないが、触れることができるそれは確かに彼女の存在を表しているのだ。

 彼女が振り向くとなぜか花の匂いがする。おなじ石鹸を使っているはずなのになぜそう思うのかわからないけれど、彼女があまりにも愛らしいのできっとそういう魔法でもかかっているんだろう。髪にうずもれると余計にそういう香りがして、髪以外にも触れたくなってしまう。


 そんな魅力的な彼女が大好きで、愛している。

 前を歩く彼女が振り返って僕の名を呼んだ。体の動きを追いかけるように舞った髪が緩やかに地面に引かれ、ほのかに花の香りがした。

 そんな彼女の笑顔は、確かに花のようだった。


 

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