第2話トンネルの念
夜の九時を回った位に、大橋トンネルに到着した。
月明かりしか辺りを照らさず、薄暗いし木々が生い茂っているため、雰囲気はいかにも心霊スポットだった。
車通りもなく、人の気配は無かった。
来てみた感じここら辺は何ともないが、トンネルの先に拓斗が行っていると、少し面倒な気がするが……。近くに居ないのを見ると、恐らくトンネルは潜っているだろう。
「あんまり関わりたくないんだけどな……」
俺はそう呟きながらも、先の見えないトンネルの中に足を踏み入れた。
一歩進んだ瞬間、背筋に寒気が走った。ああ…やっぱりな。
だがその踏み出した一歩を戻すことは無く、そのままトンネルの奥まで進んだ。
中はジメジメしていて、コケなどが目立った。上の方は見ないようにしていたからどうなっていたかは分からないが、感じたことは「使われてないな」という事だった。
二分位歩いていると、外が見えてきた。入ったところの反対側は、さらに森度合いが増しており、道もコンクリートから土に変わっていた。
トンネルを出てすぐのベンチに、拓斗が座っていた。
「おい拓斗、帰るぞ」
予想通り、話しかけても反応が無い。取り合えずベンチの方まで歩いていき、うつろな目をした拓斗の背中を一発叩く。そして拓斗をおんぶして、来た道を戻ることにした。
拓斗を背中に担いだまま、ポケットから木でできた数珠を取り出す。ここまで来ると気休めにしかならないが、無いよりはいくらかマシだろう。
何分間か歩いているが、一向に出口が見えてこない。それどころかギチギチと音がしている。
「はあ……」
思わずため息をついてしまった。ずり落ちてきた拓斗を適当なところに寝かせて、俺は数珠を握り締めた。
そして首を上に向け、トンネルの天井を見た。
そこにはナニカがうごめいていて、無数の目があった。一、二、三……数えたらきりがないほどのソレは、真っすぐに俺の方を向いていた。
何かを潜る、という行為は、こちら側からあちら側に行くという行為になる。廊下から教室、家から外の様に、扉と指定されたものを潜る事で、そこは元居た場所とは全く別の場所になるのだ。
それが入っていい場所、許可を貰った場所なら何も問題は無いが、人の家に勝手に入ったら逮捕されるように、誰かの領域に侵入するのは良くない行為だ。
トンネルに入るときに感じた寒気は警告。入ってもいいけど出られると思うなよ?といった感じだった。
「死人はそっちに仲間入り、生きた人は殺して仲間入り……。面倒な話だ」
質が悪いのが、もう何人もそこに居るという事だ。最初は一からだったのが、噂が噂を呼びこうなったんだろう。
このまま放置しても問題は無いが、またここに来るであろう馬鹿が居るので、面倒ごとは早めに片付けることにする。
俺は鞄から真っ白な杭を取り出し、そこに数珠を巻き付け地面に打ち付けた。もちろん金槌とかは無いから素手だ。
「ぎゃああああああああ!!!!!??」
杭を打ち付けた瞬間、金属音の様な声がトンネルに響いた。
これで収まってくれたら楽だったんだが、目の前の女が事態が悪化したことを告げていた。
「おいおい、自殺なら他人を巻き込むなよ」
もう鼻と鼻が当たるような距離に居るソレに、俺はそう言った。
何故こんなに冷静でいられるのか?それは生まれた環境が良かったからだろう。
元々こういうナニカが見えていた俺が生まれたのは、幸か不幸か寺だった。父が坊さんだったから、昔から対処法やなんやらを教わっていたんだが、子供が俺しか生まれなかったせいで修業が本格化した。
だからこういった事は慣れている。本当は関わりたくないんだが、馬鹿が近くに居るから最近はこういう事が多い。
「ねえ……。何で浮気したの?」
目の前の女が、そう聞いてきた。
成程……。恐らく浮気されて自殺、死後も思いが強すぎてその浮気した彼氏も巻き込まれたんだろう。
その後も関係者から他人、全く知らない人に渡って今に至るわけだ。
この場合は力業は逆効果、話を聞いてあげるのが良い。が、変に聞きすぎるともっと面倒なことになるときもある。
「俺はお前の彼氏じゃない」
という事でこのまま会話をすると、持っていかれそうなので早々に終わらせるのが賢明だろう。
「あの女がいいっていうのお!!?」
聞く耳も無さそうなのでさくっと成仏してもらおう。明日も学校だ。
「天に願い奉る。この者とその者を受け入れ、どうか輪廻の輪に戻したまへ」
地面に差した杭を抜き、女の顔面に突き刺す。そして一拍手。手の音を響かせ杭を殴りめり込ませる。
「川が見えたらそこで手を洗いなさい。後は其方の者が導いてくれる」
叫び声は聞こえることは無く、目の前の女の姿も消えていて、普通のトンネルに戻っていた。
また拓斗をおぶって歩き出すと、直ぐにトンネルの出口が見えてきた。
こういう場所はたまりやすいが、こんなにひどいのを見るのは初めてだった。
「ん~……」
のんきに寝ている拓斗にいら立ちを感じながらも、そのままおぶって家まで送った。
呼び鈴を鳴らすと拓斗のお母さんが出てきて、俺の背中で寝ている拓斗を見て少し表情を明るくした。
「あら流清君!ごめんねえいつも送ってもらって」
「いえ、慣れてますから」
拓斗を渡した後、拓斗のお母さんにお菓子を貰って、俺も帰路についた。
やっと帰れる。俺はそれしか考えていなかったが、家に着くころに晩御飯がないことを思い出したのだった。
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