絵画
「かくして、その美貌で呂布を虜にした貂蝉は、董卓を殺害、王允の野望は成就したのです。しかし、権力を握った王允もすぐに非業の死を遂げ、呂布もまた
そこまで語ると、華佗は己の罪の告白を終えた。
復活して寝台から起き上がっていた張飛は、
「董卓や呂布、きっと王允も、俺みたいに貂蝉に操られて自滅したんだなぁ……。美女はもう懲り懲りだぜ」
と言って身を震わせた。
「
「曹操め、貂蝉が人を惑わす怪物だと知っていやがったのか。最初から、貂蝉を使って俺たち義兄弟の仲を裂こうとしていたんだ。絶対に許せん! 曹操の首を引っこ抜いてやる!」
張飛が地団駄を踏みながら吠える。
今すぐ丞相府に殴り込みに行きそうな勢いだったため、関羽は「落ち着かんか、翼徳。我らには他にやるべきことがあるであろう」と叱った。
「へ? 他にやることって何だよ」
「決まったことよ。貂蝉を……いや、紅昌という娘を救う。そして、西施と荊軻の霊も。玄徳兄者もそうお考えのはずじゃ」
関羽がそう言って劉備に眼差しを向けると、彼は静かに首を縦に振った。
「我ら義兄弟、天下争乱の犠牲となった人々を救うために立ち上がった」
「いかにも。為政者の謀略に利用された紅昌、西施、荊軻は、我らが救うべき存在だ。生者も死者も関係無い。西施の首と荊軻の肝は我々がきちんと弔い、冥府に送ってやろう」
「けど、雲長兄貴。紅昌本人の首と肝はどこにあるんだ? 王允が捨てちまったんじゃ……」
張飛がそう言い、首を傾げた。
すると、華佗がすかさず「それなら、儂が所有しておりまする」と立ち上がり、供の召し使いに背負わせて来た布袋の中から玉製の箱を取り出した。
その箱を開けると、十六歳ぐらいの少女の首とずいぶん貧弱そうな肝が入っていた。
「手術の報酬として、不用になった紅昌の首と肝ごと、この玉の箱を譲り受けました」
「へえ。七年前に切り取られた首なのに、今にも喋り出しそうな……。あれ? この子、どこかで見たことがあるぞ? あっ、ちょっと待った。本当に最近見た。俺が絵に描いた」
張飛は、部屋の隅に隠していた絵を劉備と関羽に見せた。
一人の優しげな少女が、絵の風景の中で子豚と戯れている。少したれ目で野暮ったい印象だが、小さな命を愛でるその眼差しは、この世の何よりも
「貂蝉を描くつもりが、何度描いてもこの顔になったんだ。俺、紅昌を描いていたんだなぁ」
「きっと、お前の
劉備が褒めてやると、張飛は顔を真っ赤にして、「よ、よせやい。恥ずかしい」と慌てた。一方、関羽は一人黙し、紅昌の首と張飛の絵を
(この顔には見覚えがある。やはり、貂蝉……否、紅昌と私は昔会っていたのだ。昨夜、私に語りかけてきた少女の人格の貂蝉は、紅昌だったのだ)
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