第21話 黄昏にきらめいて②

「もとちゃん、どしたん?」

リュウはもと子の頬に手をあて、上を向かせた。

もと子はこぼれる涙を拭うこともしない。

「こんな美しいもの初めて見ました。リュウさんありがとうございます。」

感激して静かに涙をこぼすもと子。


リュウはもと子の涙を指先で拭ってやった。

「世の中には美しいものがたくさんあるんやで。もとちゃん、これからは一緒に見ような。」

改めてしっかりともと子の肩をリュウは抱いた。


 夕日が沈みきった。水平線は墨を流したように暗い。ところどころ浮かぶ船の明かりが海を彩り、空はまたたく星が彩るのみ。もと子はようやくリュウから少し体を離した。

そのタイミングでリュウは鞄から小さな箱を取り出した。


「もとちゃん、ちゃんとプロポーズしてなかったやろ。今日、ここでプロポーズさせて。」

リュウは姿勢を正すともと子の正面に立った。

「もとちゃん、ずっと俺の隣に居て欲しい。俺と結婚してください。」

もと子の目の前でリュウは取り出した小さな箱のふたを開けた。そこにはキラキラ光る小さなダイヤの指輪があった。


「金がないから安物でごめん。遅くなったけど婚約指輪です。受け取ってください。」

もと子は目をまん丸にした。が、すぐに涙をぽろぽろと流してリュウに抱きついた。

「で、返事聞かせてくれ。」

言葉にならず、もと子はしがみついたまま何度もウンウンと首を振った。


 リュウが手を取りもと子の左手薬指に指輪をはめた。もと子は泣くのも忘れて左手を灯りにかざした。

「お星さまよりずっと綺麗です。」

リュウの方を振り仰いだもと子の頬にはキラキラ光る涙。その涙をそっとリュウはふいた。


「喜んでくれてありがとう。そろそろ生玉さん行こうか?」

「はい!大切な指輪、落とさないようカバンに入れますね。」

もと子は指輪を外して箱に入れ、カバンに入れようとして忘れていたことに気がついた。


 もと子は小さなひょうたんのお守りを出してきた。

「リュウさん、うっかりしてました。太融寺さんのお土産です。ひょうたんの口のところをのぞいてみて。」

言われるままにリュウはのぞいてみた。


「オオッ!カッコいいお不動さんやん。」

「リュウさんが危ないめにあってもお不動さん守ってくださいって。ケガしないでくださいね。」

リュウはもと子の手に自分の手を重ねた。

「うん、気をつけるな。」

もと子は頬を緩めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る