第6話 釣鐘まんじゅうの賭け⑥

「うどん屋で買った生姜湯なんだって。なんでうどん屋?でしょ。でね、この生姜湯、生姜がスゴく効いてて辛くてね。でもクセになるのよ。」

石田は楽しそうに笑った。


「お味噌は赤味噌とか白味噌とかですか?」

「ううん、ご飯にまぶしたりするタイプよ。甘めの味噌に胡麻が香ばしくてこっちも美味しかったわ。うちの家族、ご飯おかわりしちゃったもの。」


石田は、いつのまにかもと子がお腹に手を置いているのに気づいた。

「石田さんのお話聞いてるとお腹空いてきました。私も食べてみたかったです。」


「ごめんね。ちゃんと覚えていればもと子ちゃんに送ってあげられたのに。」

羨ましげなもと子に石田は申し訳ないとばかりに頭を下げた。


 その後、もと子は関西空港行きの高速バスに乗る石田をバス停まで送った。道すがら、石田はお土産のクッキーの入った紙袋を差し出した。


「もと子ちゃん、もうすぐ夫が定年で、そうなったらずっと大阪にいるわ。落ち着いたらまた連絡していい?」


もと子は石田の目を見てうなずいた。すると石田はうっすらと涙を浮かべてもと子の両手を握り、もと子の後れ毛をそっと耳にかけてやった。


「ありがとうね。もと子ちゃんのこと応援してる。何かあったら私にも知らせてね。」

名残惜しげな笑みを残して石田は去っていった。


 ママが生きていたらあんな感じなのかな?地下街を太融寺へ向かいながら歩いていたが次第に周囲に食べ物屋が増えてきた。どれも美味しそう。そうなると石田から聞いた生姜湯と味噌のことが気になってきた。


「パパとママの思い出の味なんだ。食べてみたいけど、ヒントがなあ,,,」

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