第3話 釣鐘まんじゅうの賭け③

「棚橋、いえ、須崎さん、元気?今日、須崎さんのお母さんの幼馴染みという方が訪ねてこられてね。須崎さんにご両親の昔の写真を渡したいとおっしゃる。連絡先を伝えていいかな?」


写真!もと子はスマホを落としそうになりながらお願いしますと返事をした。


 もと子は小学生の時に事故で両親をなくした。駆け落ちした両親は家族から疎まれていたため後始末をした母方の伯父に最低限の身の回りの物以外は全て処分されてしまった。そのためもと子は両親の写真を一枚も持っていない。


もと子は石田という母の幼馴染と連絡先を交換した。多忙な石田とはなかなか都合がつかず、太融寺に行く前に会うことになった。


 待ち合わせの梅田のホテルは空中庭園があり、大阪のエッフェル塔と海外で有名な梅田スカイビルの近く。チリひとつなくピカピカに磨きあげられているロビーは木材が多く使われているためか温かみを感じさせる。


 ロビーにやって来たもと子がキョロキョロしていると女の声がした。

「サツキちゃん!」

お母さん?もと子は思わず声のした方を振り返った。


そこには小花を散らした柔らかなワンピースの似合う優しげな中年女がいた。女はもと子の顔を見るなり大きく手を振った。


「ごめんね。サツキちゃんがきたのかとビックリしたの。初めまして石田です。もと子ちゃんは本当にサツキちゃんにそっくり。」

「初めまして。あの結婚して須崎になりました。須崎もと子です。」


「結婚!あの小さなもと子ちゃんがそうなのね。」

向かいに座ったもと子に石田は感慨深げなまなざしを向けた。


「今日は来てくれてありがとうね。私はサツキちゃんの幼馴染みでね、サツキちゃんが信治さんと駆け落ちした後も私とは連絡を取り合ってたの。」


石田は鞄から取り出した封筒をもと子に渡した。封筒の中には数枚の写真があった。もと子は写真を手に取った。

「これは?」

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