魔導騎士

「ったく、オリヴィエの奴、俺に隠し事なんてしやがって」


ローランはソファに寝そべり、両手で抱き締めているクッションに顔を埋めながら言う。

その口調は明らかにふて腐れていた。


結局、オリヴィエはローランに真実を話す事はなく、用事があるからと言って再度外出していた。


「……でもオリヴィエ、随分と深刻そうな顔してたな」


隠し事をされた事を腹立たしく思うローランだが、その一方でオリヴィエを心配してもいた。

そもそもオリヴィエが隠し事をする理由は、何らかの形で自分の事を気遣っての事だろうというのをローランは薄々察していたのだ。


「……あー! もう! オリヴィエのバカバカ! 俺に隠し事なんて水臭いじゃないか!」


ローランはソファーから飛び起きると、いてもたってもいられない様子で外出する。

勿論、行き先はオリヴィエの下である。

どこにいるのはか知らないものの、それでもオリヴィエの帰りをじっと待っている事はできなかったのだ。



 ◆◇◆◇◆



ローランが邸を飛び出した頃。

オリヴィエの姿はリュミエール宮殿にあった。


「よく戻ってきた。で、決心が着いたかね?」

皇帝シャルルが玉座の上から問う。


「……はい。僕は、あなたの従います。ですからどうか、この大陸に平和な時代を」


「ふふ。無論だ。……では、魔導法皇の名において、そなたを魔導騎士に任じる」


魔導騎士まどうきし

それは五百年前、ガリア大陸に君臨したカルディニア帝国魔導教会の最高戦力と言われた存在である。

闇魔法と剣技を駆使してカルディニアと魔導教会を発展させてきたが、ヴェルサイユ王国との戦争に敗れてこの世から姿を消していた。


しかし今、その魔導騎士が五百年の時を越えて蘇った。


「ではそなたに一つ闇魔法を伝授しよう」


そう言うと、皇帝シャルルは懐から、掌に収まる程度の大きさをした小さな黒い水晶玉を取り出した。

その水晶玉は、禍々しい魔力を帯びており、目にしたオリヴィエは一瞬で激しい威圧感に襲われる。


「へ、陛下、それは一体?」


「闇魔法の根幹を為す魔力を凝縮した魔力球まりょくきゅうだ。闇魔法が他の魔法と異なる点は、その発動に生け贄が必要という事」


「い、生け贄……」


ヴェルサイユにおいて、闇魔法が禁忌とされている理由は、魔導教会の魔法体系だからというのもあるが、それ以上に生け贄が必要という非人道的な理由も大きかった。


「この魔力球には、これまでの戦で倒れた兵士達の魔力が詰め込まれている。彼等の魔力が、そなたを魔導騎士へと昇華してくれる。健闘を祈るぞ」


「健闘、ですか?」


シャルルの言っている意味をすぐに理解できなかったオリヴィエ。

そんな彼を尻目にシャルルは、水晶玉を右手で握りつぶす。

その瞬間、割れた水晶玉から黒い霧のようなものが噴き出した。

霧はまるで生き物のように蠢き、オリヴィエの身体を包み込む。


「へ、陛下、一体、これは!? ……ぐ、ぐわあああッ!」

突如、苦しみ出すオリヴィエ。


「その苦しみが終わった時、そなたは魔導騎士として生まれ変わる。ふふふ。ふははははッ!」

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