オリヴィエの苦悩
皇帝シャルルの下を後にしたオリヴィエは、しばらく帝都リュミエールの街を当ても無く彷徨っていた。
いつもなら親友のローランの所へ戻るのだが、今日は一人で考え事をしたい気分だったのだ。
「僕は、一体、どうしたら良いんだ」
オリヴィエは頭を悩ませていた。
これまでの事件も戦争も全ては皇帝の陰謀だった。
以前であれば、最高司祭パトリアルケータの下へ駆け込んだだろう。
しかし、もう彼女はこの世にいない。
教会のトップにいた人達もノートルダム大聖堂事変で死去している。
魔導教会に相対するはずの聖導教会も皇帝シャルルと帝国の支配体制に組み込まれて、今は無いも当然。
かつての戦友である教会騎士団の騎士達は今、大陸各国に遠征に出ている。
頼りにできるのはただ一人。
「ローラン……。でも、ダメだ」
ローランが真実を知れば、確実に皇帝シャルルを倒そうと動き出すだろう。
そうなってしまえば、ローランは間違いなくシャルルに殺される。
シャルルの実力がどれほどのものかをオリヴィエはよく知っていた。
仮にオリヴィエがローランと二人掛かりで挑んでも勝つ事は難しいだろう。
まして、今のシャルルはヴェルサイユ帝国の皇帝だ。
彼の下に辿り着くには何重にも張り巡らされている護衛を打ち破らなければならない。
いくら皇帝騎士団の
当てもなく街中を彷徨っていたオリヴィエだが、結局行くところもなくローランの待つ邸へと戻るのだった。
「思えば、これまでずっとどこへ行くにもローランと一緒だったな。道理でどこへ行っても気分が晴れないはずだ」
オリヴィエにとって気の休まる場所、楽しめる場所は、どこか、ではなくローランの傍らなのだと、今更ながらに気付く。
「一人でくよくよ悩むのは止めよう。ローランなら僕と違って、きっと最善の道を見出してくれるはずだ」
結局はローラン頼りか、と自嘲するオリヴィエ。
しかし、オリヴィエはそれでも良いとさえ思った。
どんな答えを導き出すのだとしても、自分とローランが共に歩む事に何の違いも無いのだから。
意を決してオリヴィエは邸の中へと入る。
「お~オリヴィエ! 帰ったか。一体どこへ行ってたんだ?」
「ちょ、ちょっと、陛下の所へね。報告したい事があって」
「ふ~ん」
ソファに寝そべるローランは、オリヴィエに視線を向けたまま高級菓子をバクバク食べている。
皇帝騎士団の
「と、ところで、ローラン」
「ん? どうした?」
「……あ、いや、その、ぼ、僕もそのお菓子、食べても良いかな?」
覚悟を決めたはずなのに、いざローランの前に立つと急に心が揺らいでしまうオリヴィエ。
ここでオリヴィエが真実を告げれば、確実にローランは後戻りできない事態を引き起こす事になる。
かつて公安委員会のロベスピエールに復讐を誓ったように。
今度は皇帝シャルルに復讐をしようと考えるはずだ。
でも、そうなれば、待っている未来は“死”だろう。
シャルルに敗れて殺されるか、皇帝に歯向かった反逆者として断頭台で首を落とされるか。
いずれにせよ、迎える結末は決している。
オリヴィエ自身、死ぬのは怖くない。騎士として戦って死ぬなら本望とも言える。
ただ、ローランが死ぬ事だけは、オリヴィエにはやはり我慢できなかった。
「……」
「……」
二人の間に奇妙な沈黙が生まれる。
そしてその沈黙を破ったのはローランの方だった。
「なあ、オリヴィエ」
「な、何?」
「お前、俺に何か隠してるだろ?」
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