生きる理由
最高司祭パトリアルケータを葬り去った皇帝シャルルは、魔法でブルターニュ国王アラン五世と交信をしていた。
いつものようにフードで顔を隠した状態で。
ヴェルサイユを乗っ取り、国内をほぼ平定した今、シャルルにとってアラン五世はもはや無用の長物だった。
「法皇陛下、メフラシュが陥落した今、我が反ヴェルサイユ同盟は存続が困難です。ヴェルサイユが共和政を廃して帝政へと移行し、混乱の渦中にある今こそ講和を結ぶ好機かと」
「講和だと? 何をふざけた事を。講和など断じて許さぬ」
「で、ですが……」
「案ずるな。手筈は整っている。そなたは何も心配せずに余の計画通りに事を進めよ」
「……御意のままに」
◆◇◆◇◆
反ヴェルサイユ同盟の打倒を掲げる皇帝シャルルの動きは迅速だった。
軍団を四方に展開して反ヴェルサイユ同盟加盟国の主要拠点を次々と攻略し、同盟を瓦解させるのに充分な戦果をもたらした。
それもそのはずである。
シャルルは裏で反ヴェルサイユ同盟を操り、軍勢を展開させているのだ。
どこがは同盟側にとって脆いポイントであるのかは全て把握できている。
しかし、それを知らぬヴェルサイユ市民達は、長く続いた戦争を一気に終息へと向かわせた英雄として皇帝シャルルを讃え、更なる戦果を期待するようになった。
そこで皇帝シャルルはローランとオリヴィエの二人に、三個軍団を率いて、反ヴェルサイユ同盟の総本山であるブルターニュ王国を攻略するように命じた。
魔導飛行船十隻という大艦隊を編成して、ローランとオリヴィエは帝都リュミエールを出発した。
「いよいよここまで来たね、ローラン」
「ああ。この戦いに勝てば戦争は終わる。そうなりゃ平和な時代にまた戻れる」
「……」
「どうしたんだよ?」
何か言いたそうな顔をするオリヴィエを見て、ローランは不思議そうに問い掛ける。
「ローランはさ、この戦いが終わったらどうするの?」
「どうするって?」
「だってさ。僕等はずっと復讐のために生きていたわけじゃない?」
「ああ。そうだな」
「でも、もう復讐の相手だったロベスピエール公爵はこの世にいない。だったら、ローランはこれから何を目標に生きるのかなって思って……。僕、ずっと不安なんだ。もし君がもう生きる理由が無いなんて、」
オリヴィエの言いたい事を理解したローランは、彼の言葉を遮ろうとするかのように肩に手を回して身体を抱き寄せた。
「何かと思えば、そんな事を心配してたのかよ。生きる理由がなくなって俺が死ぬとでも思ったのか?」
いつものように無邪気に明るく振る舞うローラン。
その姿はまるでオリヴィエには太陽のように神々しく感じられた。
「俺はこうしてオリヴィエと一緒にいられればそれで満足さ。だから心配するなって!」
「ローラン……」
「戦争が終わって平和になったら、二人でリュミエールの旨い物を食って食って食いまくろうぜ!
「……」
ローラン、君の生きる理由は胃袋を満たす事に変わったのかい?
そう問いたい気持ちを堪えて、代わりに大きな溜息を吐く。
「な、何でそこで溜息が出るんだよ?」
「いや。別に~」
オリヴィエがやや大げさに惚ける。
次の瞬間、二人の顔には笑みが溢れて年相応の少年のように笑い合った。
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