パトリアルケータ
五百年前。
ガリア大陸は、聖導教会を擁するヴェルサイユ王国と魔導教会を擁するカルディニア帝国が相争う戦乱の時代の真っ只中だった。
国力で勝るヴェルサイユ王国と魔法という新技術を持つカルディニア帝国の戦いは熾烈を極め、大陸全土は戦火に包まれていた。
しかし、そんな中、創聖神ステラの加護を受けし御子がこの世に生を受けた。
少女の名は
少女は生まれながらの指導者だった。
教会の預言者達は、神託で少女の誕生を知ると国中の赤子を集めて、少女を探し出した。
少女は教会へと足を踏み入れると、数々の聖遺物がどこからともなく召喚してみせる。
そして、
「この聖遺物を手に戦える
という神託を告げた。
こうして誕生したのが現代の教会騎士団である。
パトリアルケータは自ら杖を振るって教会騎士団とヴェルサイユ王国の諸侯を率いて戦った。
その力は絶大であり、長く続いた戦争はヴェルサイユ王国の勝利に終わり、ここにヴェルサイユによる大陸支配の歴史が幕を開ける。
それ以降もパトリアルケータは、
彼女の存在は、王国を纏め上げる上で重要なものとなっていたのだ。
しかし、そんな彼女もやはり一人の人間だった。
それが証明されたのは、戦争が終わって平和な時代が到来してから十年の時が流れたある日だった。
パトリアルケータは、当時ヴェルサイユの王太子だったあダリウスとの恋に落ちる。
二人は仲睦まじく、未来の王と最高司祭の結婚には誰もが賞賛の声を上げた。
これまで指導者という立場に縛られ続けたパトリアルケータがようやく人並みの幸せを得る事ができる。
彼女をよく知る者はそう微笑ましく思っていた。
だが、その時は来なかった。
ダリウスが急な病に倒れて亡くなったのだ。
彼女の持つ、創聖神ステラの恩寵の全てを注いでも、パトリアルケータは彼を救えなかった。
ダリウスの骸を前にして、彼女は思った。
これは罰なのだと。
人々を導くためにこの余に生を受けた人物が人並みの幸せを得ようとした事への。
だから決心した。
もう自分の幸せは求めない。
自分の全てをこのヴェルサイユの繁栄のために尽くそうと。
自分自身、そしてダリウスが愛したこの国を守るためにこの身を捧げようと。
◆◇◆◇◆
「私は、最期の瞬間までこの国を守る!」
「創聖神の奴隷風情が良い気になるな!!」
激しい魔法の攻防が、玉座の間で繰り広げられる。
雷が飛び交い、炎の柱が立ち、吹雪が吹き荒れる。
それは天変地異のようであり、この世の終わりの瞬間がこの場に凝縮されているようだった。
激しい攻防の末に、シャルルは床を蹴って空中に飛び上がり、パトリアルケータへと急接近する。
そして右手に握る聖剣ジョワユーズでパトリアルケータの心臓を貫いた。
「くはッ!」
「ふふふ。これで終わりだ。もう眠るが良い。運命に縛られし、哀れな少女よ」
「く、ま、まだ、私は、……」
悲痛な声を漏らしながらも、パトリアルケータは遂に力絶えて息を引き取った。
五百年という時を生きた少女は、無念の中でその生涯を閉じるのだった。
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