最高司祭と法皇

 ローランとオリヴィエがメフラシュ攻略に向かっている頃。

 首都リュミエールでは大きな事件が起きていた。


 皇帝となったシャルルが玉座に座していると、そこに死んだと思われていた最高司祭パトリアルケータが姿を現したのだ。


 玉座の間には、シャルルが新たに皇帝騎士団とは別に発足した近衛騎士団の兵士達がいたが、パトリアルケータが杖を一度床に突くと、鈍器で頭を殴られたかのような衝撃と共に彼等は気絶してしまう。


 しかし、玉座の主は顔色一つ変えずにその様を眺めている。

「パトリアルケータ、生きていたか」


「玉座の座り心地はどうかしら、皇帝? それともこう呼びましょうか? 魔導教会法皇陛下」


「ふふふ。やはり気付いていたか」


「確信を持ったのはたった今です。あなたから迸る闇魔法の魔力を感じるまで」


「ここへ来て、余も興奮を抑えきれなくなってきた。今こそ魔導教会が培ってきた闇魔法の力をたっぷりと思い知らせてくれるわ」

 玉座に座ったままシャルルは両手を前に突き出す。

 その瞬間、前に出した手から稲妻が放たれ、戦端が切って落とされる。


 パトリアルケータは右手に握る杖で一度床を突く。

 その音に反応するかのように稲妻は偏向して、豪華に彩られた床や壁、天井へと衝突した。


「ふふふ。聖導教会の時代は終わった。今日よりは我が魔導教会がガリア大陸を支配する!」


「さて。それはどうかしらね!」

 パトリアルケータは杖を前へと振り下ろす。

 それと同時に凄まじい旋風が巻き起こり、シャルルへと襲い掛かる。


 シャルルは玉座から立ち上がり、鞘に収まっていた聖剣ジョワユーズを抜いて横一線に振るった。

 その斬撃は、パトリアルケータが起こした旋風を吹き飛ばして相殺してみせた。


「そなたから譲り受けたこの聖剣は今後も使わせてもらうぞ。他の聖遺物も全てな」


「そう何もかも思い通りに行くとは思わないことね!」


 両者は一斉に魔法を発動してぶつけ合う。

 創聖神ステラの恩恵を一身に受けた聖導教会最高司祭パトリアルケータと魔導神ベリアルが生み出した闇魔法を代々受け継いできた魔導教会法皇シャルル・ド・ボナパルド。


 それは正に光と闇の戦い。文字通り勝者がヴェルサイユの全てを手に入れる。


「お前さえいなければ、余は労せずしてヴェルサイユを掌握できたのだ。欲に塗れた貴族どもを煽動するのは実に容易かったよ」


「では、やはり六年前の革命もあなたの仕業だったのね」


「ふふふ。ロベスピエールもブルターニュのアラン王も全ては余の駒。このガリア大陸は再び魔導教会の物となるのだ。そしてその時、余は大陸全土を統べる皇帝となる」

 そう言ってシャルルは悪意に満ちた笑みを浮かべる。


 対するパトリアルケータは苛立ちを隠し切れない様子で歯を食いしばり、その可憐な容姿を歪めた。

「あなたは、そのためだけにここまでしたというの!? 一体どれだけの人の命をもてあそんできたのか分かっているの!?」


「ふん。偉そうによく言う。お前こそ聖導教会の地位を不変のものとするために、革命を利用したのはお前も同じであろう?」


「……」


「当時、王室と教会の関係には亀裂が入りつつあった。だから、お前は革命勢力を裏から支援して王室を始末した。そんなお前に余のした事をあれこれ言われる筋合いは無い」


「……そうね。確かに私も聖人君子とは程遠いわ。でも、例えどんな手を使っても私には聖導教会、そしてヴェルサイユを守らなければならない義務がある! 私は聖導教会最高司祭パトリアルケータなのだから!」


「その義務もここまでだ。お前は余に殺されるのだからな!」

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